未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
74

山形の秘境・大鳥池で釣り糸を垂れる

伝説の巨大魚タキタロウを追って

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.74 |10 September 2016
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#13ついにその瞬間は訪れた!

途中から上着を脱ぎ、釣れそうな場所に移動

 その日のうちに東京に戻るために、僕は12時には山を下り始める予定だったから、あと1時間しかない。
 大鳥池まできて釣果ゼロは、悪夢だ。
 焦りが募って、昨日の山道で作ったどうでも良い言葉が頭に思い浮かぶ。
「足元を見るな。空を見ろ」
 空を見ても釣れないよ!

 破れかぶれな気分になった僕は、水門付近をバタバタと歩き回り、ルアーを激しく動かした。小魚と間違えてルアーに食いつく、という通常の使い方では反応がないので、ルアーの不規則すぎる動きに翻弄された魚が釣り針に引っかかる、という独自路線を狙ったのである。ほかに釣り人がいたら怒られてしまうかもしれないが、その日、大鳥池にいたのは僕ひとりだし。
 そうして釣竿をギュンギュン動かして数分が経った頃、突然、釣り竿にググッと重みがかかった。それまで一度も感じたことのない感触だ。
 こ、こ、これは!!!

 そういえば、最も肝心な「魚が引っかかった後にどうすればいいのか」を釣具店の店員さんに聞くのを忘れた。僕の数少ない知識では、リールを巻いたり戻したりして駆け引きしているイメージがあるけど、そうしていたのはマグロを狙う松方弘樹だ。
 仕事も、恋愛も、何もかも、駆け引きが苦手な僕は、思い切って一気に引き上げた。
 釣り針の先には、5センチほどの小魚が揺れていた。

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未知の細道 No.74

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。