未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
74

山形の秘境・大鳥池で釣り糸を垂れる

伝説の巨大魚タキタロウを追って

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.74 |10 September 2016
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#11朝5時から釣りスタート

正しい釣り人ファッションを知らないので、オリジナルスタイル

 翌朝は4時半に起き、5時から釣りを始めた。釣具屋の心優しき店員さんに、人間と同じく、魚も涼しい時間のほうが動きがあってよく釣れると聞いていたからだ。
 朝食は、メープルパンと羊羹2つ。我ながら侘しい食事に、「脂がのっていてすごく美味しい」というタキタロウを思い浮かべる。
 佐藤さんが「朝も蚊は多いよ」と言っていたので、上下、長袖長ズボンで池に向かったけど、前夜の「大群来襲」というほどではない。ホッとして、佐藤さんから教えてもらった沢の釣りスポットを目指す。
 タキタロウは、基本的に池の深いところにいる。でも、エサとなる小魚を追って、沢に来る可能性はある。1985年に捕まったタキタロウは、沢の網に引っ掛かった。大鳥池ではボートでの釣りが禁じられているから、タキタロウを狙うなら、沢しかない。

 山小屋から池の淵を歩いて20分で沢に着いた。透明度の高い池の水の中に、小さな魚がたくさん泳いでいるのが見える。俄然やる気が高まったけど、すぐに萎えた。
 そこには、蚊はいなかった。でもハチがいた。しかも、アグレッシブ。
 ノロノロと準備をして、ようやく針を垂らしても、3、4匹のハチが身体の周りをブンブン飛び回って、全く集中できない。
 前日の悪夢がよみがえる。
 今、露出しているのは顔だけ。顔をめがけてハチがアタックして来たらどうしよう……。蚊に刺されの痒みはどうにかなるにしても、顔面をハチに刺されたら耐えられない。
 恐らく、山に慣れた人なら適当な対策があるのだろうけど、僕は逃げるしかなかった。
 結局、早々にそのスポットを離れ、山小屋からすぐ近くの水門に戻った。

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未知の細道 No.74

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。