未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
74

山形の秘境・大鳥池で釣り糸を垂れる

伝説の巨大魚タキタロウを追って

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.74 |10 September 2016
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#7タキタロウの目撃者

タキタロウ山荘の管理人、佐藤征勝さん。タキタロウを食べた経験(!)を持つ

 何度も休憩し、ひとりでため息をついたり、笑ったりしながら孤独な時間を乗り越えて、大鳥池にたどりついたのは16時50分。ほぼ3時間半の行程だった。その日の大鳥池は、鏡のような水面に周囲の山々が映り込み、ため息が出るほど美しかった。
 大鳥池の淵に建つタキタロウ山荘では、朝日屋のご主人で、小屋の管理人も務める佐藤征勝さんが待っていてくれた。事前に「タキタロウの話を聞かせてほしい」とお願いしていたのだ。
 70歳を超えているとは思えないほどかくしゃくとした佐藤さんは、大鳥池のある旧朝日村の元村長で、大鳥地域づくり協議会のメンバーでもある。そして、一連のタキタロウ調査のきっかけとなった人物で、話を聞くにはこれ以上ない存在だ。

 佐藤さんによると、地域では100年、200年以上前からタキタロウの存在は知られていて、朝日村には実際に獲ったことがあるという人、食べたことがあるという人、自宅の池で飼ったことがあるという人までいた。
 佐藤さんとタキタロウの出会いは、1982年の6月17日だった。

「当時、県の観光キャンペーンで、朝日村で2つの観光ツアーを企画したんです。ひとつは大鳥池でのタキタロウ釣り、もうひとつは以東岳の登山。釣りは定員を超えたんですが、以東岳のほうは申し込みが2人しかなくてね。中止しようと思ったんだけど、申込者から怒られて、しょうがなく実施することにしたんです。それで、申込者の2人と私ともう一人で以東岳に登っていて、中腹で休憩していた時に、ふと大鳥池を見たら西側にV字型の波が移動しているのが見えたんですよ」

 あれは何だ? と双眼鏡で眺めると、複数の巨大魚が泳いでいるのが見えた。子どもの頃からタキタロウの存在を知っていた佐藤さんは、タキタロウだ! と確信したそうだ。
 この時の様子をスケッチしていた登山者の1人が地元メディアに情報を伝えたところ、新聞の一面に掲載される大ニュースとなった。

 
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未知の細道 No.74

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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