ちょうど100年前に行われた水門工事の際、ダイナマイトで爆破作業をしたところ、タキタロウが浮かび上がってきたと言われている。もちろん、今は立派な水門になっているので当時とは状況が違うが、僕は、この時も釣具店の店員のアドバイスを思い出していた。
「水流は魚に取って扇風機と同じ。暑い夏は涼しいところに魚が寄ってきます」
水門からは水が流れ出ていて、水流が生まれている。上からのぞくと、やはり小さな魚がたくさん見える。水流があり、小魚がいるという点では、沢と同じだ。
あちこちに動き回って時間を無駄にするよりは、一カ所で勝負をかけよう。
僕は改めて準備をして、魚紳さんのルアーを池に投げこんだ。
……釣れない。ていうか、タキタロウどころか、普通の魚も音沙汰がない。
前日の、帽子が針に引っかかった時の感触と魚がルアーに食いついた時の感触が似ているとしたら、全くその気配がなかった。
釣りキチ三平で予習した通り、ルアーを放り込んで、魚の動きのように操っているつもりなのだけど、何の手応えもない。
途中で、釣り糸がこんがらがったり、ルアーが水中の枝や草に引っかかったたりして、そのたびに大幅に時間を取られて、気づけば11時になっていた。
川内イオ