当然、メディアからはさらなる調査の申し出が相次いだが、佐藤さんをはじめとする朝日村の住民たちは、それを断った。
タキタロウが捕らえられたら、見物客や釣り客が殺到するのは間違いない。それでは、大鳥池を含めて、せっかくの昔ながらの自然が穢されてしまうかもしれない。それは結局、タキタロウを追い詰めることになる————。
村人にとってタキタロウは大鳥池の主であり、客寄せパンダにするつもりはなかったのだ。
その想いは今も変わっていない。だから、2014年に行われた30年ぶりの調査も、タキタロウの捕獲ではなく、魚群探知と水質調査にとどめたのだ。佐藤さんは、こういう。
「前回と同じように、水深20メートルから30メートルのところに魚群が探知されて、タキタロウがいることがわかった。その水域に、十分な酸素があることもわかった。その確認が取れたから、それでいいんです」
僕は佐藤さんの話を聞いて、よくあるUMAの目撃談とは全く違う真実味を感じた。佐藤さんたち地元の住民にとって、タキタロウは未確認生物ではなく、実際に存在する、大切に扱うべき貴重な存在なのだ。
時計を見ると、18時を回っていた。
外を見ると、まだ明るい。
「ちょっと釣りに行ってきます」と告げると、佐藤さんは「頑張って!」と微笑んだ。
川内イオ