未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
74

山形の秘境・大鳥池で釣り糸を垂れる

伝説の巨大魚タキタロウを追って

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.74 |10 September 2016
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#9大鳥池とタキタロウを守る

大鳥池は、大昔に地滑りによって形成された堰止湖。「池」だけどとてもデカい

 当然、メディアからはさらなる調査の申し出が相次いだが、佐藤さんをはじめとする朝日村の住民たちは、それを断った。
 タキタロウが捕らえられたら、見物客や釣り客が殺到するのは間違いない。それでは、大鳥池を含めて、せっかくの昔ながらの自然が穢されてしまうかもしれない。それは結局、タキタロウを追い詰めることになる————。
 村人にとってタキタロウは大鳥池の主であり、客寄せパンダにするつもりはなかったのだ。

 その想いは今も変わっていない。だから、2014年に行われた30年ぶりの調査も、タキタロウの捕獲ではなく、魚群探知と水質調査にとどめたのだ。佐藤さんは、こういう。
「前回と同じように、水深20メートルから30メートルのところに魚群が探知されて、タキタロウがいることがわかった。その水域に、十分な酸素があることもわかった。その確認が取れたから、それでいいんです」
 僕は佐藤さんの話を聞いて、よくあるUMAの目撃談とは全く違う真実味を感じた。佐藤さんたち地元の住民にとって、タキタロウは未確認生物ではなく、実際に存在する、大切に扱うべき貴重な存在なのだ。
 時計を見ると、18時を回っていた。
 外を見ると、まだ明るい。
「ちょっと釣りに行ってきます」と告げると、佐藤さんは「頑張って!」と微笑んだ。

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未知の細道 No.74

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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