僕が話しかけた人たちはみな、年の瀬の、しかも朝10時スタートの映画を観に、市外から訪れていた。そして、お世辞の気配を全く感じさせない気持ちのこもった言葉で、東座への想いを聞かせてくれた。
こずえさんから「誕生日の月は1作品無料」などの特典がある「フロムイーストシネマクラブ」の会員が900人を超えていると聞いていたけど、その理由がわかる気がした。応援したくなる、通いたくなる、遠方からでも訪ねたくなる映画館、それが東座なのだ。
インタビューの最後に、子どもの頃からずっと映画とともに生きてきたこずえさんにとって、映画の魅力はなんですか? と尋ねると、目をキラキラとさせながら答えてくれた。
「自分は一通りの人生しか歩めないけど、映画は何百通りもの人生を見せてくれる。映画館は、その一つ一つの人生と対峙できる場所です。そうして別の人生と向き合うことによって新しい自分が生まれてくる。自分が予期しないシーンを観ると、こんな感情初めて味わうなということがあるでしょう。なんでここで泣いてるんだろうとか、誰も笑ってないの場面で笑っちゃったり。その感情の揺れが面白くて、知らない自分に出会うことで、自分の人生が大きくなったような、豊かになったような気持ちになるんです」
「例えば、第二次世界大戦下のドイツ人の夫とユダヤ人の妻を描いたドイツ映画『あの日のように抱きしめて』を観たとき、主人公の女性の言動が理解できませんでした。今もわかりません。でも、これからほかの映画を観ながら、知識と情報を得ていくと、だんだん彼女の気持ちがわかっていくんじゃないかと思っています。それが楽しみなんですよ」
映画が好きで好きで仕方がないという気持ちが溢れ出ているこずえさんの話を聞いていたら、無性に映画が見たくなった。シネコンではなく東座で。
帰り際、僕は「フロムイーストシネマクラブ」の会員になった。
川内イオ