昨夏、「世界ベストレストラン50」の第1位に4度も選ばれたデンマークの名店noma(ノーマ)のドキュメンタリー『ノーマ、世界を変える料理』を上映した時は、こずえさんの発案で、以前から懇意にしている塩尻のフレンチレストラン「ラ・メゾン・グルマンディーズ」とコラボレーションをした。
こずえさんが「映画のなかの料理を再現してもらえませんか」と企画を持ちかけたのだ。そのとき、オーナーシェフの友森隆司さんは「難しいな、これは……」と言いながら、サンプルのDVDを朝まで見て、できると確信。
そこでこずえさんは配給会社に、こういう企画をやるから宣伝してほしいと連絡をしたところ、配給会社から「それは無理でしょう。ノーマのぶ厚いレシピがあるので、料理を指定してくれたらコピーしてレシピを送ります。それをシェフに渡してください」と言われたそうだ。
配給会社の気持ちもわかる。世界一のレストランの料理を再現してというこずえさんの依頼はほとんど無茶ぶりで、塩尻というより日本全国でも再現できる人は少ないだろう。ところが、友森さんは「レシピなんていらない」と断り、欧州でしか手に入らない食材は地元のもので代用して、自力でノーマの料理を完璧に再現して見せた。
これには、東京の配給会社も驚嘆したそうで、うわさを聞き付けた神戸のフレンチレストランで働くシェフが東座までやってきて、映画を観た後、ラ・メゾン・グルマンディーズに向かったそうだ。
川内イオ