1995年に始まった上映会も、今年で23年目に入る。
2011年には、父・茂夫さんが他界して、こずえさんが二代目の代表に就いた。これまでの間に、こずえさんにとって忘れられない出来事がいくつもあったという。
イギリスのケン・ローチ監督が1930年代のスペイン内戦を描いた映画『大地と自由』を上映していたときのこと。東座に電話がかかってきて、出てみたら東京からだった。
「東京の者なんですけど、東京ではどこでもやってなくて、配給会社に電話をしたら、塩尻の東座というところで夜1回だけやってますよと聞きました。明日、観に行きたいのでよろしくお願いします」
そういうと、電話は切れた。
翌日、それらしい青年がひとりでやってきた。20時半からの上映が終わった後、気になって話しかけてみると、泊まる場所も決めていないという。そこで、健康ランドに問い合わせて予約を取り、車で送った。その道中、青年は身の上話を始めたそうだそうだ。
「実は僕、結婚したい相手がいて、婚約していたんです。でも突然、青年海外協力隊に入ることにしたので結婚をやめますと言われて、振られちゃったんですよ。彼女は『大地と自由』を観て、どうしても中近東でお手伝いをしたいと思ったって言うんです。それがすごいショックで、悔しくて、いったい僕の人生を変えてしまった映画とはどんなものなのかと腹を立てながら塩尻まで来ました。でも、映画を観て納得しました」
別れ際、その青年は「また頑張ります」と寂しげに微笑だ。
このとき、こずえさんは「やっぱり映画って影響力が大きいんだな。心して上映しないと人の人生を変えてしまうかもしれない」と感じたそうだ。
川内イオ