未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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映画ファンを引き寄せる塩尻のレトロ映画館

東座の舞台裏奮闘記

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.83 |25 January 2017
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#85万円と「見えない力」

 その後、熱心に足を運んでくれる数少ない観客からの要望で朝10時からの回も追加されたが、上映会は閑古鳥が鳴くことも多く、それでも父・茂夫さんとは「何があっても貸館料を支払う」という約束だったので、さらに赤字が拡大するという悪循環だった。

 それでも続けようと思えたのは、OL時代には感じたことのない充実感を得ていたことに加えて、こんな出来事があったからだ。

 上映会を始めたのは1995年で、翌年の冬にはすでに資金の余裕がなくなっていた。それでも、どうしても上映したい映画があった。名匠エミール・クストリッツァ監督の『アンダーグラウンド』だ。1995年にカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞し、翌年の春、日本でも公開されていた。

 こずえさんは、ほかの場所での公開が落ちついた年末に上映したいと考えていたが、そのとき、配給会社に事前に収めるお金がどうしても5万円足りなかった。親に頼むわけにもいかないし、ほかの仕事をするあてもない。どうしようかと途方に暮れていたら、ある日、機嫌が良かった父・茂夫さんが「宝くじでも買おうか」とお金をだしてくれた。

 その時、実家では父と母とこずえさんの3人で暮らしていたので、買ってきた宝くじを3等分した。すると、こずえさんが持っていた宝くじが当選したのである。
 金額は5万円。
 このとき、「見えない力に支えられてるんだ」と感じて元気をもらったという。

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未知の細道 No.83

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。