未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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映画ファンを引き寄せる塩尻のレトロ映画館

東座の舞台裏奮闘記

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.83 |25 January 2017
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#2昭和の時代にタイムスリップ!?

かつて東座の2階は、最初に建てられた芝居小屋の名残で桟敷席だった

 2016年12月30日の朝、前日に宿泊した松本市内から車を走らせて東座に向かった。東座は塩尻の商店街の一角に軒を連ねており、ノスタルジックなフォントで「名画 東座」と書かれた黄色の看板が目印だ。

 この日は、年内最後の営業日。僕の目当ては、10時スタートの『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(以下『トランボ』)だった。『ローマの休日』など次々とヒット作を生み出した脚本家ダルトン・トランボの生涯を描いた作品である。

 鉄筋コンクリート2階建ての東座は、チケット売り場もロビーも、「老舗」という言葉がふさわしい味のあるたたずまい。さらに劇場の扉を開けると、アンティーク感溢れる座席とスクリーンが目に飛び込んできた。

外観も館内もすべてがレトロ

 館内のあらゆるものが年代物で、だけど丁寧に手入れをされて、いまも現役で活躍している。だからだろうか、どこか懐かしい空気のなかで、席に腰掛けてぼんやりしていたら、昭和の時代にタイムスリップしたような気持ちになった。

 通常の映画館では、上映開始を知らせるブザーが鳴ると、照明が落ちて予告編が始まる。東座は違った。ロビーに出てコーヒーを買って席に戻ったら、こずえさんが『トランボ』の紹介を始めているではないか! 開演前に映画の見どころを紹介する映画館なんて、聞いたことがない。

 しかも、これがまた良い。長年、映画コラムニストとしても活動してきたこずえさんのお話は軽妙かつ明快で、映画への期待がグングン高まってくるのだ。劇場内にいた20名弱のお客さんも、心なしか前のめりになっていた。

 支配人の名解説は、いつでも聞けるわけではない。1ヵ月の間に2週間、朝10時と夜20時30分からの2回だけ上映されている「フロムイースト上映会」のときに限られる。この上映会こそ、神戸からもお客さんを引き寄せた東座の目玉企画なのだ。

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未知の細道 No.83

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。