未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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映画ファンを引き寄せる塩尻のレトロ映画館

東座の舞台裏奮闘記

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.83 |25 January 2017
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#7苦労の連続で赤字運営に

フロムイースト上映会のためにこずえさんがセレクトした映画

 番組の撮影が終わり、久しぶりの日常に戻ったこずえさんは、「独断と偏見で、自分が観てほれ込んだ作品しか上映しない」というモットーで、「フロムイースト上映会」を本格的にスタートさせた。

 この名前には、「イースト=東座から文化を発信したい」という想いが込められている。その志は高かったが、ハードルも高かった。まず、支配人の茂夫さんが「誰も知らないような映画を上映しても、商売にならない」と大反対。そこで、こずえさんは、「東座の邪魔にならない時間帯にやるので、映画館を貸してください」と頭を下げ、貸館料を支払うという条件で、ようやくひと月に1週間だけ、最も客が来ない夜8時半からの上映を許された。

 映画の調達にも苦労した。映画館は配給会社からフィルムを借り受けて映画を流す。フィルムがデジタルデータになっただけで、この構造はいまも変わらない。現在は映画館と配給会社が売り上げの何割かをシェアする契約が多いそうだが、当時は配給会社が決めた価格を事前に支払わなければならないこともあった。

 これが、厳しかった。こずえさんは映画館の手伝いをしていたが、「自分の生活は自分で何とかしなさい」という父・茂夫さんの方針で無給。ほぼ無職に近い状態で、配給会社への前払いはきつい。ほかに収入源がないので、映画が不人気だったら赤字になった。

 立ち上げの時はテレビの取材という後押しがあったが、インターネットもない時代に、良く知らない、派手さもない欧州の映画を観に来る人が塩尻にどれだけいるだろうか?

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未知の細道 No.83

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。