未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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映画ファンを引き寄せる塩尻のレトロ映画館

東座の舞台裏奮闘記

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.83 |25 January 2017
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#4女優になる夢を追って上京するも……

映画コラムニストとしても活躍する東座代表の合木こずえさん

 小学生になると、複雑なストーリーはわからないまでも、加山雄三や石原裕次郎のアクションものや小林旭の任侠ものがお気に入りになり、大人になったら浅丘ルリ子のような女優になりたい、と夢を抱いた。
 放課後に映画を観るのが楽しみで「外で遊んだ記憶がほとんどない」というほど映画の世界に没頭していたこずえさんだが、その間に世の中の状況は少しずつ変化していた。

 1960年代後半以降、大衆の娯楽が多様化するにつれて急速に映画人気が陰り始めたのだ。その影響で東座からも客足が遠のき、経営危機に陥った茂夫さんは、やむをえず2階の劇場でピンク映画を上映することを決めた。この決断によって、中学生になっていたこずえさんは、同級生から「ポルノ女優」と揶揄されるなど悔しい思いをした。
 しかし「父の決断は、私と妹を大学に行かせるため」とわかっていたから、周囲の心ない視線を無視することができた。そして、父の想いに応え、女優という自分の夢をかなえるために、高校卒業後、日本大学芸術学部の演劇学科に進学した。

 一途な想いは実り、在学中から少しずつテレビやCMの仕事がくるようになった。ところが、一本気なところがあるこずえさんは、華やかなだけではない芸能界の裏側を知って相容れないものを感じ、23歳で女優の道を断念。
 心機一転、海外のテレビ局の代理店を務める映像関係の企業に就職した。

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未知の細道 No.83

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。