「フロムイースト上映会」の成り立ちは、東座の歴史に触れずには伝えられない。
東座の前身は、1922年に作られた芝居小屋だった。時とともにその経営権が移り変わり、松本にあった「演技座」という映画館がオーナーについた際に、そこの社員だったこずえさんの父、茂夫さんが支配人に任命された。1949年のことである。
茂夫さんはその後独立し、家族で東座の経営にあたるようになった。
当時の映画人気はすさまじく、1958年には観客動員数が11億2745万人に達した。これはいまでも最多記録である。ちなみに、2015年の観客動員数は1億6663万人だから、約10倍の人が映画館に殺到していたのだ。
こずえさんが生まれたのは、映画の人気が絶頂期だった1959年。当然、東座も大忙しで、こずえさんは「ハイハイするくらいの時から映画館にいました」と振り返る。
まだ芝居小屋の面影を残していた当時の東座は2階が桟敷席で、お客さんは座布団に座ったり、ゴロンと横になったりして映画を観ていた。幼い頃のこずえさんは、毎日のようにその桟敷席に足を運んでいたという。
「2階の桟敷席では、OLのお姉さんたちがいろいろな食べ物を持ってきて、寝転がったりしながら映画を観ていました。お姉さんのところに行くとお菓子をくれたり、遊んでくれたりするので、それが楽しくていつも桟敷席にいましたね」
川内イオ