この言葉が、かつて女優を志していたこずえさんの心に火をつけたのだろう。
それなら、と提案したのが「フロムイースト上映会」の原点となるアイデアだった。
「渋谷のル・シネマとかシネスイッチ、神保町の岩波ホールとか、私が東京でずっと通っていた単館系の映画館が扱っている映画を東座で上映できるようになったら楽しいかなと思ったんです。自分も観たかったし」
話を聞いた監督も乗り気になり、平穏な日常が一気に動き出した。上映作品は、前年に日本映画監督協会新人賞を受賞した塩尻市出身の古厩智之監督の長編デビュー作『この窓は君のもの』に決定。テレビの取材が入っているということもあり、市役所や市長の協力も得て上映会の情報は市民に広がり、公開日、東座は満員の観客で埋まった。
ドキュメンタリー番組としては、これ以上ないクライマックスだろう。観客も、古厩監督も、市役所の職員も、市長も、テレビクルーも大満足だった。こずえさんを除いて。
「この時は、あくまでもテレビの製作会社側の立場でクライマックスを作ったんです。それは地元の人たちに喜んでもらいたい、地元出身の監督や東座の存在も知ってほしいということでやりましたけど、もともと私は欧州の映画が好きで、自分でセレクトした映画を流そうと考えていたので、手応えというよりは旗揚げ公演という意味合いが強かった」
川内イオ