登り始めてすぐに、これは簡単じゃないぞと気づいた。震災で崩れた岩や石が散乱していて、道なき道を進まなければならないのだ。
木の棒を拾って杖にして、山を登っていく。その日、宿泊する参拝客は僕しかいないと言われていたから、今この瞬間、神様の宿るこの山に登っているのは僕ひとり。そう考えると、なんだか神聖な気持ちに……ではなくて、おれ、大丈夫かな? という不安が湧きあがってきた。なぜなら、運動不足と腹の出っ張りが甚だしく、全く山に慣れていないから。
しかも、その日は夏のような日差しでかなり暑い。山に入ってから20分もすると息が荒れ、大量の汗が流れ落ちてきた。
暑い、ツラい、足が重い……。早くも泣きごとが頭の中を埋め尽くし始めたその時! ウネウネウネ~っと目の前を何かがよぎった。
おお!!! なんとまた蛇が現れた!!!
僕は、数秒前の弱気が嘘のように目をぎらつかせて、蛇の写真を撮った。
頭の中がシンプルな僕は、こう思った。
「弁財天様が、僕を待っている!」
完全に気持ちが切り替わった僕は、登山家になったような気持ちで山にアタックした。
途中には、境内にあった木よりももっと大きなこぶをつけた木があり、そこで存分に頭を擦りつけた後に、休憩を取った。
さらに登ると、「清水石」と書かれている場所があり、ひしゃくが置いてある。よくよく見ると、石の脇からコンコンと水が湧きだしていた。すくって飲んでみると、これがまた冷たくてめちゃくちゃ美味い! ごくごくと喉を鳴らしながら、3杯は飲んだ。
リフレッシュした僕は、ぐんぐんと急な山道を登っていった。すると、一気に視界が開けて、目の前には牡鹿半島を臨む絶景!
そこから頂上まではあと少し。気合いを入れ直して、サミットプッシュ!
歩き始めてから1時間10分、頂上にたどりつき、無事、弁財天様にお祈りができた。
船長から聞いた「神様に願いことをする時は、どこの誰なのか、どんな願い事なのか、具体的にきちんと伝えることが大切です」という言葉を思い出し、住所氏名から念入りに。
川内イオ