ここまで来て、諦めて帰るのか?
いやいやいや! と自問自答する。
でも、どうすれば、1円玉を岩の上に載せられるのか……その場で脳みそをこれ以上ないほどフル回転させた僕は、唐突に閃いた。
石のふもとから真上に投げるのが難しいなら、横から投げればいいんじゃない?
考えてみてほしい。野球のボールを真上に投げようと思ったら、たいした距離は出ないだろう。でもキャッチボールをするように、横に投げたら距離は何倍にもなる。
天柱石の説明書きにも、「下から投げよ」とか「横から投げたらダメよ」とは書いていない。ただ、「石の頂きに留まれば~」と書いてあるのだから、どこから投げてもいいはずだ。
僕は、ちょっとした岩を登り、天柱石の真横に移動して、息を整えた。
そして、もう一度、渾身の力を込めて1円玉を投げた。すると、力み過ぎたのか、あさっての方向に飛んでいった。
ああ! 誤算だったのは、真横から投げると回収ができないことだ。1円玉を放り投げて見失うという人生初の体験に、少し罪悪感を抱いた。でも、真下から投げた時とは明らかに飛距離が違う。これはいける! と手ごたえを得た僕は、野球のピッチャーのように振りかぶり、もう一度、投げた。
ピューッと飛んでいった1円玉は、天柱石の上に姿を消した。そしてすぐに、チン、という小さな音が聞こえた。
やったー! やったー! やったー!
何回かわからないほどガッツポーズを繰り返した後、岩を駆け下りて、天柱石に力いっぱい抱き着いた。そうして、願い事を呟いた。
達成感に充たされた僕は、スキップでもしたい気分で山を下った。神社に着くと、17時を回っていた。山に入ってから、3時間半が立っていた。参拝客が姿を消した境内で現実に急に戻ってきたような気分になり、気づけばひざがガクガクと笑っていた。
川内イオ