さあ、次に目指すは、天柱石!
勢いに乗って、来た道とは反対側に山を下りて行った。道の悪さは相変わらずで、ところどころ、ツルっと滑りながらも15分ほどすると、ついに見えてきた巨石! 確かにデカい! ていうか、なぜ、山の中腹にこんな巨大な石がボンと立っているのだろう?
石のふもとに行ってみると、確かにあった寛永通宝。江戸時代から、「願いが叶う」という言い伝えを信じて山に入り、同じ道を通ってここまでたどり着き、岩に向かってお金を投げた人がいたんだなと思うと、なんだか同志のような気分になる。でも、下に落ちているということは、岩の上にお金を載せられなかったということだから、無念だったろう。
君の無念は、俺が晴らそう。
俺は載せる。載せてみせる!
慣れない登山で疲労したせいか、妙なテンションになっていた僕は、財布を開いて「あら?」と呟いた。そういえば! 頂上にたどり着いた時、良い気分になっていたから、奮発して大きめの額のコインを全てお賽銭にした。だから、財布の中には1円玉が数枚しか残っていなかった。その瞬間、天柱石のことをきれいさっぱり失念していたのである。
アホ、バカ、間抜け! と自分の浅はかさを嘆いても始まらない。切り替えよう。手元にあるのは1円のみ。それなら、1円を投げるのだ!
思いっきり振りかぶって、渾身の力を込めて1円玉を投げた。勢いよく放たれた1円玉は、岩のなかほどで減速し、落ちてきた。
1円玉、軽すぎるよ! 全然飛ばないよ!
僕はやけくそ気味に、連続して1円玉を投げたが、僕の想いは1円玉に1ミリも乗らず、ポト、ポトと目の前に落ちてくる。肩が痛い。
川内イオ