未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
72

投げて、祈って、抱きしめて!

神の島・金華山で金運開運奮闘記!

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.72 |10 August 2016
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#9軽すぎる1円

 さあ、次に目指すは、天柱石!
 勢いに乗って、来た道とは反対側に山を下りて行った。道の悪さは相変わらずで、ところどころ、ツルっと滑りながらも15分ほどすると、ついに見えてきた巨石! 確かにデカい! ていうか、なぜ、山の中腹にこんな巨大な石がボンと立っているのだろう?

 石のふもとに行ってみると、確かにあった寛永通宝。江戸時代から、「願いが叶う」という言い伝えを信じて山に入り、同じ道を通ってここまでたどり着き、岩に向かってお金を投げた人がいたんだなと思うと、なんだか同志のような気分になる。でも、下に落ちているということは、岩の上にお金を載せられなかったということだから、無念だったろう。

 君の無念は、俺が晴らそう。
 俺は載せる。載せてみせる!

 慣れない登山で疲労したせいか、妙なテンションになっていた僕は、財布を開いて「あら?」と呟いた。そういえば! 頂上にたどり着いた時、良い気分になっていたから、奮発して大きめの額のコインを全てお賽銭にした。だから、財布の中には1円玉が数枚しか残っていなかった。その瞬間、天柱石のことをきれいさっぱり失念していたのである。
 アホ、バカ、間抜け! と自分の浅はかさを嘆いても始まらない。切り替えよう。手元にあるのは1円のみ。それなら、1円を投げるのだ!

 思いっきり振りかぶって、渾身の力を込めて1円玉を投げた。勢いよく放たれた1円玉は、岩のなかほどで減速し、落ちてきた。
 1円玉、軽すぎるよ! 全然飛ばないよ!
 僕はやけくそ気味に、連続して1円玉を投げたが、僕の想いは1円玉に1ミリも乗らず、ポト、ポトと目の前に落ちてくる。肩が痛い。

真ん中に四角い穴が開いているのが寛永通宝
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未知の細道 No.72

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。