未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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片道10時間の道程が前菜になる焼尻島

北の離島で世界一の羊を焙る。

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.120 |10 August 2018
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#6のびのびと育つ羊たち

24時間放牧されている羊たち。

 その時、フレンチ業界で脚光を浴びたのがほかの羊肉とは明らかに違う味だった。その風味は、フランスで最高級の評価を得ている、ブルターニュ地方で育った羊の肉「プレ・サレ」に勝るとも劣らない評価を得たのだ。

 プレ・サレはフランス語で、プレは牧場、サレは塩味という意味を表す。大西洋に面したブルターニュ地方で育てられた羊は、ミネラル豊富な海水の塩分を含んだ風を受けて育つ牧草を食す。そうすると、身体に自然の養分がいきわたり、肉も豊かな風味を持つようになるのだ。海に囲まれた焼尻島も同じ環境にあった。

 「羊は体のなかで塩分を作り出すことができないので、塩分を摂取しなくてはいけません。人間と同じですね。ここは海が近く遮るものもないので、ミネラル豊かな潮風に晒された草にも塩分が移ります。うちの羊は夏の間は24時間放牧されていて、その草だけを食べて育つから美味しくなるんです」

 ブルゴーニュ地方とは異なる焼尻島独特の環境も、プラスに働いた。周囲12キロの小さな離島ということもあって、羊を襲う野犬やキツネ、へびなどが存在しない。そのため、羊たちはストレスなく過ごすことができる。羊に限らず、牛や豚、そして人間もストレスが強い環境であればあるほど身体が弱る。のびのびと育つことで、肉の味も変わるのだ。

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未知の細道 No.120

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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