小栗さんは昨年、亡くなってしまったが、1980年から37年間、まき続けてきた種はしっかり実り、常呂町では1部から5部まで計42チームによるリーグ戦が行われている。授業でカーリングを学ぶ常呂町の子どもたちのレベルも高く、今年の1部リーグでは、中学生チームが初優勝。僕が取材に訪れた日には、小学生向けの体験会が行われ、40人ほどが参加していた。そのなかのひとり、小学6年生の女の子の言葉を聞いた時、僕はカーリングのパイオニアとして駆け抜けて、いや滑り抜けてきた常呂町の底力を感じた。
「お姉ちゃんが小栗さんにスカウトされたのがきっかけで、私も小学校2年生から始めました。小栗さんに教えてもらったことで印象に残っているのは、ストーンはぜんぶ同じように見えるけど、ひとつひとつに個性があるから個性をうまく活かしてやってほしいと言われたことです。お姉ちゃんはいま中2ですけど、高校に入ってからもずっとカーリングをやるつもりみたいだし、私も中学校に入ってからも続けようと思っています。お姉ちゃんと一緒に、五輪に行きたいなと思っています」
ちなみに、リーグ戦に参加している選手の最高齢は82歳の女性。最近、その女性のチームに30代でカーリング未経験の選手が加入したため、午前中、カーリングホールで一緒に練習しているそうだ。80代と30代の選手が一緒に練習できるスポーツって、なかなかないと思う。それに、そういう風景が日常にあること自体がめちゃくちゃ素敵じゃないですか! 取材を終えるころ、僕はもうすっかりカーリングと常呂町のファンになっていた。
川内イオ