なかほら牧場で過ごすうちに、就活からは完全に心が離れた。美味しい乳製品を作りたいという思いは変わらなかったからこそ「ここで働きたい」と思った。その思いを伝えると中洞さんや先輩スタッフは歓迎してくれたし、家族や友人、大学の先生も「がんばって」と応援してくれた。
迎えた2012年の春、なかほら牧場での生活がスタートした。学ぶことが多く、日々は吹き抜ける風のように過ぎていった。
熱心な仕事ぶりが評価されて、乳製品工場の責任者にも指名された。
「牛乳、飲むヨーグルト、ソフトクリームのミックス、カップのアイスクリーム、バターも作りました。大学では乳製品製造学という授業があって実習もしたんですけど、実際にやってみないとわからないことがたくさんありましたね。お給料をいただきながらそれをやらせていただけるのは本当にありがたいことで。この経験がなかったら、自分で牧場を始めるのもハードルが高かったと思います」
島崎さんが働き始めて4年目の2015年、神奈川県山北町の大野山の麓にある共和地区の住民有志が中洞さんとコンタクトを取り始めていた。大野山にあった県営育成牧場が翌年春に閉鎖されることが決まっていたこともあり、これからの使い道についてアドバイスを求めていたのだ。
中洞さんから山北町の話を聞いた島崎さんは、その年の11月、自ら立候補して中洞さんととともに山北町に向かった。
「中洞牧場は何年か働いたら独立する先輩も多いし、私もいずれは自分で牧場をやりたいと思っていて、ちょうど土地を探し始めたタイミングだったんです。神奈川県出身なので、神奈川でお借りできる土地があればいいなと思っていたところでした」
川内イオ