未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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酪農女子と5頭の牛の新たな物語

幸せな牛のやさしいミルク

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.125 |9 November 2018
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#4大雪のなかで憧れて

 『黒い牛乳』の詳細はここには記さないが、牛乳パックに描かれた牧場と牛ののどかな絵は幻想ということがわかる内容だ。もともと牛乳や乳製品が好きで、乳業系の企業に就職を考えていた島崎さんは、本の内容に衝撃を受けて、なかほら牧場を検索。ホームページに「研修生受入中」とあったのを見て、すぐに申し込んだ。研修期間はわずか1週間だったが、その時の経験がのちの人生を決めた。

 2011年、大学3年生の冬、岩泉町は稀に見る大雪に見舞われて、なかほら牧場も電気、水道が止まるという非常事態に陥った。運悪く、なのか、運良くなのか、そのタイミングでなかほら牧場に研修に来ていた島崎さんは、そこで見た景色に心を奪われた。

 「中洞さんや先輩のスタッフの皆さんが、除雪の入らない道を自力で通れるようにしたり、鍋に入れた雪を溶かして水を確保して料理を作ったり、お風呂にしたりしているのを見て、この人たちってどこでも生きていける力があるんだなって思ったんです。この大雪のなかでもちゃんと生きている牛ももちろんすごいと思ったんですけど、それよりもそこにいる人たちが逞しくて、こういうふうになれたらかっこいいなと思いました」

 短い研修を終えて北海道に帰った島崎さんだが、岩手での思い出が強烈に自分のなかに刻まれていて、「また行きたい」という思いが募った。そこで就職活動をやめて、春と夏をなかほら牧場で過ごした。

なかほら牧場の様子。(提供:薫る野牧場)

 雪に閉ざされている冬と違い、春から秋にかけては50、60頭の牛たちが50ヘクタール(当時)ある牧場のなかで、のびのびと過ごしている。それは、牛のためだけでなく山のためにもなる。雑草を食べて山をきれいにする、排泄物で土を豊かにする、土を踏み固めて山を強くするという効果もあるのだ。現地でそれを教えられた島崎さんは、「こんなに広いところで牛たちが山を作っているんだな」と胸を打たれた。

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未知の細道 No.125

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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