未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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酪農女子と5頭の牛の新たな物語

幸せな牛のやさしいミルク

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.125 |9 November 2018
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#2人間と牛の幸せな関係

薫る野牧場から望む富士山

 10月末の16時過ぎ。標高723メートルの大野山の山頂付近にはひんやりとした風が吹き、牧場からドカーンと見える富士山が茜色に染まり始めた。島崎さんは搾乳室の外側につけられた鐘を鳴らしながら、「こー、こー」と声を上げると間もなく、林のなかから5頭の牛がぞろぞろと現れた。

 「こー」というのは岩手の言葉で、「来い」という意味だ。岩手で生まれ育った牛たちはその言葉を理解し、くつろいだ様子で自ら囲いに入っていく。続いて、島崎さんが搾乳室の扉を開けて、たらちゃんおいで! と優しく声をかけると、右耳に「たらちゃん」と名札をつけた牛がのっそりのっそりと扉のなかに足を進める。動物園で見るようなパフォーマンスではない日常のなかの自然なやり取りを見て、僕はこれこそ人間と牛の幸せな関係なんじゃないかと思った。

 今年6月にオープンしたばかりの「薫る野牧場」には牛舎がない。牛たちは、大野山の山頂にある8.8ヘクタールの牧場のなかで、1日2回の搾乳時以外、24時間、朝から晩まで放牧されている。牛たちの食事は山の草。ほかの牧場では当たり前のように与えられている配合飼料は、この牧場にはない。島崎さんはいう。

 「配合飼料は、牛にたくさんお乳を出してもらうために栄養計算したものです。でも、牛がそもそも食べるものじゃないもの、トウモロコシとか小麦とか草以外の穀類が含まれているので牛に内蔵にとっても食べ過ぎちゃうとよくないことが起きてしまいます」

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未知の細道 No.125

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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