あああああ~。森の宝石もキノコの王様も逃してまさかの成果ゼロ。肩を落とす僕に、まさかのミラクルが待っていた。山を下り、冨田家でお茶をいただきながら武子さんが描いたキノコの絵などを拝見して、そろそろ帰ろうかというその時!
武子さんが「お土産にどうぞ」と紙袋を持ってきてくれた。そのなかに、ケーキを入れるような箱が入っていた。武子さんはその箱を指して、「マツタケです」と言った。
「この前、孫たちとキノコ狩りに行ったときにね、孫が見つけたんだ。放射線量のチェックもして基準値以下だったから、よかったら持って帰ってください」
思わず、ええ! と大きな声をあげてしまった。取材に同行してもらって、お土産にマツタケをもらうなんて、ありえない。僕がアワアワしていたら、ご夫妻は優しく微笑んでこう言ってくれた。
「私たちはまた採れますから。またキノコ狩りに行きたくなったら連絡ください」
泉駅で電車を待っている時、がまんできずに箱を開けてみると、とても大きくて立派なマツタケが2本も入っていた。デパートだったら桐の箱に入っていそうなぐらいの、まさに王様といった見事なたたずまいのマツタケだった。
僕はまたいわきに戻ってこようと思った。恩返しにふさわしいのは、やっぱり森の宝石かキノコの王様だろう。次こそ必ず。
川内イオ