未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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いわきの山でトレジャーハンティング

森の宝石とキノコの王様を求めて。

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.124 |25 October 2018
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#2まさかの発見

 上野駅から朝8時発の特急電車に乗り、泉駅まで2時間ちょっと。駅を出ると、武子さんと旦那さんの明雄さんが待っていてくれた。おふたりとも今年80歳というけれど、まったくその年齢に見えない。地元の地学同好会の会長を務めている明雄さんは、武子さんが山に行く時はいつも同行するそう。きっと山歩きが若さの秘訣なのだ。

 明雄さんの運転で、トリュフが採れた小川町の現場へ向けて出発。40、50分ほどのドライブの間にトリュフ発見の経緯を聞いた。

 「初めて見つけたのは、会員の人なんですよ。いわきキノコ同好会の採集会前日の10月6日、イノシシが地中のミミズを探して掘り起こされた土地で、何の気なしに地面を見ていたら、石みたいなものが転がっていたと。周りは全部砂利ですよ。でもその人は目がいい人だったもんで、手に取ってみたら、ん? これは石じゃなしにどうもキノコのようだということでふたつに切ってみた。すると大理石模様が見えた。それで、もしかしてこれはトリュフじゃないかということで、7日に行われた採集会の時に持ってきたんです」

いわきキノコ同好会のメンバーが発見したトリュフ

 武子さんのもとに持ち込まれたキノコは、淡い黄土色で、確かにトリュフの特徴である大理石模様があった。しかし、見た目だけでは判断がつかないので『地下生菌―識別図鑑』という図鑑の著者のひとり、国立研究開発法人森林研究・整備機構「森林総合研究所」の木下晃彦さんに鑑定を依頼。すると間もなくして2種類ある日本固有のトリュフのひとつ「ホンセイヨウショウロ」とお墨付きを得た。

 そこで、武子さんは考えた。

 「誰かが落としたかもしれないし、どこからか来たのかもしれない。自生しているとすれば、別のキノコが見つかるだろう」

 11月4日、第一発見者の案内で、ほかの会員とともに再び山に入った武子さんは、熊手で発見場所に近い位置の土をかいた。すると1.5センチ×1.2センチほどの小さなキノコが、コロリと出てきた。

冨田武子さんが発見したトリュフ

 「それを爪の先でかいてみたら、大理石模様だったんですね。それをうちに帰ってから顕微鏡にかけますと、同じ胞子の形の写真が撮れたんです」

 これも木下さんに送付したところ、同種のトリュフであるという回答を得た。福島県では過去に黒トリュフが見つかったことがあるが、「ホンセイヨウショウロ」は初めての発見。いわきで50年以上、キノコ採集をしてきた武子さんは、「まさかと思った」と顔をほころばせた。

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未知の細道 No.124

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。