上野駅から朝8時発の特急電車に乗り、泉駅まで2時間ちょっと。駅を出ると、武子さんと旦那さんの明雄さんが待っていてくれた。おふたりとも今年80歳というけれど、まったくその年齢に見えない。地元の地学同好会の会長を務めている明雄さんは、武子さんが山に行く時はいつも同行するそう。きっと山歩きが若さの秘訣なのだ。
明雄さんの運転で、トリュフが採れた小川町の現場へ向けて出発。40、50分ほどのドライブの間にトリュフ発見の経緯を聞いた。
「初めて見つけたのは、会員の人なんですよ。いわきキノコ同好会の採集会前日の10月6日、イノシシが地中のミミズを探して掘り起こされた土地で、何の気なしに地面を見ていたら、石みたいなものが転がっていたと。周りは全部砂利ですよ。でもその人は目がいい人だったもんで、手に取ってみたら、ん? これは石じゃなしにどうもキノコのようだということでふたつに切ってみた。すると大理石模様が見えた。それで、もしかしてこれはトリュフじゃないかということで、7日に行われた採集会の時に持ってきたんです」
武子さんのもとに持ち込まれたキノコは、淡い黄土色で、確かにトリュフの特徴である大理石模様があった。しかし、見た目だけでは判断がつかないので『地下生菌―識別図鑑』という図鑑の著者のひとり、国立研究開発法人森林研究・整備機構「森林総合研究所」の木下晃彦さんに鑑定を依頼。すると間もなくして2種類ある日本固有のトリュフのひとつ「ホンセイヨウショウロ」とお墨付きを得た。
そこで、武子さんは考えた。
「誰かが落としたかもしれないし、どこからか来たのかもしれない。自生しているとすれば、別のキノコが見つかるだろう」
11月4日、第一発見者の案内で、ほかの会員とともに再び山に入った武子さんは、熊手で発見場所に近い位置の土をかいた。すると1.5センチ×1.2センチほどの小さなキノコが、コロリと出てきた。
「それを爪の先でかいてみたら、大理石模様だったんですね。それをうちに帰ってから顕微鏡にかけますと、同じ胞子の形の写真が撮れたんです」
これも木下さんに送付したところ、同種のトリュフであるという回答を得た。福島県では過去に黒トリュフが見つかったことがあるが、「ホンセイヨウショウロ」は初めての発見。いわきで50年以上、キノコ採集をしてきた武子さんは、「まさかと思った」と顔をほころばせた。
川内イオ