未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
124

いわきの山でトレジャーハンティング

森の宝石とキノコの王様を求めて。

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.124 |25 October 2018
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#5翻弄される素人

 ウォーミングアップを終え、ついにトリュフの発見場所に。「人が殺到すると困る」ということで詳しい場所は書けないが、え? こんなところに? という林道の脇だ。落ち葉がたまっていて、そこをイノシシがエサとなるミミズを求めて鼻でこすりながら歩いたらしく、土がほぐされている。

 「落ち葉をそおっとどければいい」という武子さんの指示通りに、熊手で土をかく。
 「白い石ころみたいなもんだからね。固まったおもちのような感じ」

 なるほど。「白い石ころ」「固まったおもち」「コロリと出てくる」と呟きながら、手を動かす。始めてすぐに気づいたけど、落ち葉と土の間には石ころやらどんぐりやらいろんなものがあって、もし数センチのトリュフがあったとしても見分けられる自信がない。

コツは落ち葉と土の間を優しく繊細に熊手でかくこと。

 不安に駆られながら、「白い石ころ」「固まったおもち」「コロリと出てくる」と熊手を動かしていると、見慣れぬ白い小さな塊が!!! もしや!!! と一目散に武子さんのもとに駆け寄り、「これはなんですか?」と見せた。ん? という表情で、武子さんがつまみ上げる。数秒見つめた後に「うーん、植物の種だね」と言われて、ガックリ。

 いやいや、まだまだ! 気合いを入れ直してしゃがみ込む。作業はまったく地味そのものだけど、これほどドキドキしながら熊手を振るったことがあるだろうか? いやない! 呪文のように「白い石ころ」「固まったおもち」「コロリと出てくる」と繰り返していたら、また怪しき物体が落ち葉の下から顔を出した! ムム!! これは僕が知っているトリュフの見た目にそっくり……もしや!!! と思って指でほじくりだしたら、ドングリの殻斗、いわゆるドングリ帽子だった。なんて紛らわしい!

 その後も似たような空振りが続き、あー! とか、くそー! とかひとりで大騒ぎしていたら、武子さんが決断を下した。
「やっぱりないね。もう行きましょうか」

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未知の細道 No.124

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。