未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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男鹿の湯再建に挑む!

温泉ガール奮湯記

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.89 |25 April 2017
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#5働き方も新しく

男鹿の湯の隣に立つ宿泊施設ケビン。安く広いため、都心からの利用者が多い。近くにバーベキュー場も

 水品さんの予想通り、都心からの観光客が多く、春休み、ゴールデンウイーク、夏休み、紅葉の秋と、途切れることなく水品さんが管理している宿泊施設ケビンに宿泊していった。

 最初は地元のお蕎麦屋さんに紹介してもらった方と一緒に働いていたが、昨年8月、婚約者の豊島多央さんが仕事を辞めて中三依に移住し、いまは二人三脚で運営に当たる。
 ここのお勧めは何ですか? と尋ねたら、水品さんは「散歩です」と笑った。

「泊まりに来る方は、バーベキューをして、川で遊んで、温泉に入る。アクティブな人は、そば打ち体験もする。それぐらいかな」

 男鹿の湯を知らないと、え、それだけ? と思ってしまいそうだが、男鹿川を見るだけでも納得する人は多いだろう。僕が訪ねた日はちょうど雪解け水が流れ込むタイミングだったそうで、水品さんは「今日は濁ってるんです」と残念そうにしていたが、僕の感覚では十分に透明だった。

 普段はもっと透き通り、青く輝いていて、川遊びや釣りができる。秋の紅葉は、近辺のどこよりときれいと聞いて、それだけで贅沢で、特別な体験に思えた。清流で思う存分に遊び、のんびり温泉に入り、バーベキューする。確かに十分かもしれない。

 中三依は冬が厳しく、客足が途絶えるため、水品さんは昨年12月から今年3月17日まで男鹿の湯を閉めて、長期休暇を取った。この間、1カ月ほどタイにってタイマッサージを習得したり、趣味の温泉巡りをしてリフレッシュしたそうだ。

 9カ月、中三依で男鹿の湯を運営して、寒い時期は3カ月、休暇を取るというなんともうらやましい働き方。開業から1年、水品さんの表情は、やりたいことをやっているという充実感でキラキラしていた。

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未知の細道 No.89

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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