水品さんの予想通り、都心からの観光客が多く、春休み、ゴールデンウイーク、夏休み、紅葉の秋と、途切れることなく水品さんが管理している宿泊施設ケビンに宿泊していった。
最初は地元のお蕎麦屋さんに紹介してもらった方と一緒に働いていたが、昨年8月、婚約者の豊島多央さんが仕事を辞めて中三依に移住し、いまは二人三脚で運営に当たる。
ここのお勧めは何ですか? と尋ねたら、水品さんは「散歩です」と笑った。
「泊まりに来る方は、バーベキューをして、川で遊んで、温泉に入る。アクティブな人は、そば打ち体験もする。それぐらいかな」
男鹿の湯を知らないと、え、それだけ? と思ってしまいそうだが、男鹿川を見るだけでも納得する人は多いだろう。僕が訪ねた日はちょうど雪解け水が流れ込むタイミングだったそうで、水品さんは「今日は濁ってるんです」と残念そうにしていたが、僕の感覚では十分に透明だった。
普段はもっと透き通り、青く輝いていて、川遊びや釣りができる。秋の紅葉は、近辺のどこよりときれいと聞いて、それだけで贅沢で、特別な体験に思えた。清流で思う存分に遊び、のんびり温泉に入り、バーベキューする。確かに十分かもしれない。
中三依は冬が厳しく、客足が途絶えるため、水品さんは昨年12月から今年3月17日まで男鹿の湯を閉めて、長期休暇を取った。この間、1カ月ほどタイにってタイマッサージを習得したり、趣味の温泉巡りをしてリフレッシュしたそうだ。
9カ月、中三依で男鹿の湯を運営して、寒い時期は3カ月、休暇を取るというなんともうらやましい働き方。開業から1年、水品さんの表情は、やりたいことをやっているという充実感でキラキラしていた。
川内イオ