思い立ったら即行動の水品さんは、2015年8月、2年半働いた温泉道場を辞めると、翌月には男鹿の湯の視察に行った。
このとき、初めて中三依温泉に降り立った水品さんは、胸を躍らせた。もともと田舎が好きな水品さんは、無人の駅も、ひと気のないロータリーも素朴で気に入った。なにより、施設の裏に流れる男鹿川のびっくりするほど透明な清流に惹かれた。
「すごく素敵な場所だな!」
視察に同行していたお母さんも「ここにしなさい」と背中を押してくれたこともあり、正式に立候補を決めた。男鹿の湯の後継者を探していた地元の自治会にとっても、25歳(当時)の女の子が移住してくるなんて、もろ手を挙げての大歓迎だろう。そこからはとんとん拍子で話が進み、新たな経営者として契約した。
それにしても、である。25歳の水品さんは、経営不振で休業していた男鹿の湯を立て直す自信があったのだろうか?
「ここは都心の人には全然知られていなかったけど、私はここの町の雰囲気と山と川にものすごく惹かれたから、都会の人にアピールすれば、良さが伝わるなと思っていました。けっこう楽観的でしたね」
確かに、中三依や男鹿の湯に魅力を感じる人は多かった。施設を改装するために「男鹿の湯ご招待」などを特典にしたクラウドファンディングを始めると138人が出資し、目標金額200万円を上回る217万3000円が集まったのだ。自己資金とこの支援金を元手に壁紙を変えるなどして内装を新たにすると、男鹿の湯はいま風の温泉に生まれ変わった。
雰囲気と居心地の良い内装やクラウドファンディングの活用などをみると、2年半のコンサルタント経験が十分に活きているように感じた。
再オープンは、昨年4月16日。4月が誕生日の水品さんが、「26歳までに自分の風呂を持ちたい」という夢を叶えた記念日となった。
川内イオ