未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
107

秩父の山奥で進むカエデ革命

甘くて深いメープルシロップの物語

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.107 |10 February 2018
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#4カナダで目の当たりにしたメープル文化

日本に自生するカエデ全28種類のうち、21種類が生えている秩父の森。

 理屈抜きで胸の内に熱い火が灯った井原さんは、年が明けた2014年の1月、会社に辞意を伝えた。会社の人たちだけでなく、NPOや組合の関係者にも考え直すように諭されたそうだが、それもそうだろう。NPOにも組合にも、専任で人を雇う資金などない。会社を辞めた後にどうやって稼ぎ、なにで食べていくのか、なにも決まっていなかったのだ。
 その状況でよく踏み切れましたね、と言うと、井原さんも首を傾げた。

「ほんと、そうですよね」

 仕事の引き継ぎなどもあり、会社を辞めるのは半年後の6月に決定。退職が正式に決まると、周囲の心配をよそに動き始めた。カエデから樹液を採取できるのは1月の末から3月にかけて。そのシーズンは、自らポリタンクを背負って作業を手伝った。

 その後の4月には、有給休暇を取って2週間ほどカナダのオンタリオ州に滞在。メープルシロップを作る農家や樹液採取の現場などを見て回った。この時に初めて存在を知ったのが、シュガーハウス。メープルシロップを加工するだけじゃなく、売店を兼ねたカフェがあり、森のガイドツアーなども行われていた。カナダでも製造に手間暇がかかるメープルシロップは高級品だが、こだわりを持って買い求める人がいて、地場産業として成り立っている。そこにはカエデとメープルシロップを中心にした文化が根付いていた。

 これこそ自分たちの活動が目指すべき姿だ! とピンときた井原さんは帰国後、シュガーハウスの建設を提案。すると、組合のメンバーも乗り気になり、建設プロジェクトが立ち上がった。

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未知の細道 No.107

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

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