未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
107

秩父の山奥で進むカエデ革命

甘くて深いメープルシロップの物語

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.107 |10 February 2018
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#3カエデのポテンシャル

秩父の山で、カエデから樹液を採っている様子。(写真提供:メープルベース)

 井原さんの話を聞いて、驚いた。山の所有者にとってカエデは貴重な収入源だから、植林にも積極的になるだろうし、山の手入れもするようになるだろう。ふたつの組合にとっては、樹液が増えれば樹液を採って販売する、それを買い取って商品化するというビジネスの規模が大きくなる。そうなればより多くのお金が循環し、森に還元される。「伐らない林業」は、人にも、森にも優しい森づくりと言えるだろう。

 これは当時の井原さんにとっても目からウロコの話で、故郷の山を舞台にした画期的な取り組みを「もっと詳しく知りたい」という想いが募った。そこで、いまも秩父で暮らす母親のツテをたどり、複数の関係者に話を聞かせてもらったそうだ。すると、エコツアーでは知りえなかった課題も見えてきた。

 まず、NPOもふたつの組合も、若者が少なかった。人材や資金不足で、情報発信や新しい商品の開発にまで手が回っていなかった。サステイナブルな山や林業を目指す活動なのに、組織自体に余裕がなかったのだ。

 何かしらの活動に興味を持った後で、このような現実を知った時に、「大変そうだな」とか「頑張って欲しいな」と思いつつフェードアウトする人も少なくないだろう。ところが、井原さんは違った。カエデを主にした「伐らない林業」に、大きなポテンシャルを感じた。せっかくの革新的な活動が世に知られていないのは残念だし、もったいない。仕事でマーケティングや販売プロモーションを担ってきた自分の力を活かせると思った。

「この活動をもっと広めたい!」

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未知の細道 No.107

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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