井原さんの話を聞いて、驚いた。山の所有者にとってカエデは貴重な収入源だから、植林にも積極的になるだろうし、山の手入れもするようになるだろう。ふたつの組合にとっては、樹液が増えれば樹液を採って販売する、それを買い取って商品化するというビジネスの規模が大きくなる。そうなればより多くのお金が循環し、森に還元される。「伐らない林業」は、人にも、森にも優しい森づくりと言えるだろう。
これは当時の井原さんにとっても目からウロコの話で、故郷の山を舞台にした画期的な取り組みを「もっと詳しく知りたい」という想いが募った。そこで、いまも秩父で暮らす母親のツテをたどり、複数の関係者に話を聞かせてもらったそうだ。すると、エコツアーでは知りえなかった課題も見えてきた。
まず、NPOもふたつの組合も、若者が少なかった。人材や資金不足で、情報発信や新しい商品の開発にまで手が回っていなかった。サステイナブルな山や林業を目指す活動なのに、組織自体に余裕がなかったのだ。
何かしらの活動に興味を持った後で、このような現実を知った時に、「大変そうだな」とか「頑張って欲しいな」と思いつつフェードアウトする人も少なくないだろう。ところが、井原さんは違った。カエデを主にした「伐らない林業」に、大きなポテンシャルを感じた。せっかくの革新的な活動が世に知られていないのは残念だし、もったいない。仕事でマーケティングや販売プロモーションを担ってきた自分の力を活かせると思った。
「この活動をもっと広めたい!」
川内イオ