お店を出てから次に向かったのは、「日本じゃないような風景が見える」(松本さん)という神津牧場。町なかから車で1時間弱、荒船山を見ながらグルグルと山を越えると、山間に広々とした牧場が見えてきた。
冬場の月曜日、さらに夕方ということで観光客の姿もない。ひとりで牧場を眺めていると、確かにアルプスの高原にでもいるような気分になる。観光協会の松本さんが事前に連絡を入れてくれて、場長の須山哲男さんに話を聞くことができた。
「神津牧場は創立129年、日本最古の牧場です。ここで牛を飼って、製品を作るということをずっとやってきました。創業者の神津邦太郎という人が、慶應義塾の時代の福沢諭吉に学んで、その時に日本人の体格をよくしなきゃいけないという薫陶を受けて、私が西洋人の食べ物を作りましょうということで、明治20年(1887年)にここに牧場を作ったんです」
「日本人は当時、160センチ前後しない時代で、そのために外国から牛や機械を輸入してバターを作ったのが始まりです。ちょうどその時、軽井沢に外国人の宣教師が避暑に来るようになって、町ができ始めた。そこにバターを持って行って売ったり、牛を連れて行って牛乳を売ったりしていました。明治の酪農ベンチャーですよ」
川内イオ