驚いたのは、その値段。この時期は、心臓ひとつに1000円前後の値段がつくそうだ。サメ一匹につきひとつしかないから、稀少な高級食材なのである。もっとも、旬の時期にはもっと安くなるという。
「本当の旬は5月、6月。今日は200匹ぐらいだけど、盛漁期には1日に2000、3000匹の世界で、横幅1キロある市場がモウカで埋め尽くされるぐらいに並びますよ。だから、価格も半値、3分の1ぐらいになります」
モウカザメの心臓が食べられるようになったきっかけが「美味しいから」だとしたら、気仙沼でモウカの星が一般家庭で食べられるようになったのは、「たくさん獲れるから」ということなのかもしれない。
モウカは不思議な魚で、血が抜けるとあっという間に鮮度が落ちてしまう。これは市場で扱われる無数の魚の中でもモウカザメにしか見られない現象で、理由はわからないそうだ。漁師さんはモウカザメの鮮度を保つために船上で血抜きをせずに市場まで持ってきて、市場で解体処理をしている。
そこまで手間暇をかけているフレッシュなモウカの星だから、おススメの食べ方はスライスしての刺身。気仙沼では酢味噌で食べるのが一般的だ。「刺身だけだと飽きるから」と、野菜炒めに入れることもあるという。
モウカの星を目の前にしながら熊谷さんの話を聞いていたら、ちょっぴりグロテスクなナマの心臓が美味しそうに見えてきた。
熊谷さんの許可を得て、ひとりで市場内を見学していたら、運良くモウカザメの心臓を取り出しているところを見ることもできた。
時計を見たら朝6時。
眠気も冷めたし、腹も減ってきた。
あとは、実食あるのみ!
といっても市場内で食べることはできないし、朝6時ではお店も開いていないから、一度、宿に戻って一休み。
川内イオ