未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
58

“究極で幻の珍味”を求めて三千海里!?

「海のギャング」を味わう気仙沼の旅

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.58 |10 January 2016 この記事をはじめから読む

#4本マグロ トロトロ、トロリ 気仙沼

口のなかでふんわりとトロけて消えた本マグロのトロ

 しかし、おかあさんのホスピタリティは留まることを知らない。突然、「これ、どうぞ」と小皿を持ってきてくれた。え? 「さっき、モウカの星をお出しできなかったから……。サービスするので、良かったら食べてください」。ええ! ていうか、このサシが入った美しいお刺身はもしかして? 「本マグロのトロです」。ええええ!! 「それだけ余っていたから、いいのよ! 食べて!」。

 こういう時、「そんな、いいです、申し訳ないです」と遠慮する人もいるけど、僕はそんなにまどろっこしいことはしない。自然なやりとりのなかで、どうぞ、と気持ちで出してくれたものは、ありがたく頂戴する、それが礼儀! と思っているので、「おかあさん、ありがとうございます! めちゃくちゃ嬉しいです!」と感謝して、本マグロのトロの刺身をペロリ。……その瞬間、僕の脳は再び竜宮城に戻ってしまい、しばらく言葉が出なかった。名前の通り、口の中でトロリと溶けて、しばらくすると知らぬ前に消えてゆく。

 本マグロ
 トロトロ、トロリ
 気仙沼

 そんな句が閃いた夜だった。
 気づけば21時。翌日は朝5時に市場に行くので、早く寝よう。「たすく」のおかあさんに厚くお礼を伝えて、店を出た。
 さあ、明日はモウカの星とご対面!

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未知の細道 No.58

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。