しかし、おかあさんのホスピタリティは留まることを知らない。突然、「これ、どうぞ」と小皿を持ってきてくれた。え? 「さっき、モウカの星をお出しできなかったから……。サービスするので、良かったら食べてください」。ええ! ていうか、このサシが入った美しいお刺身はもしかして? 「本マグロのトロです」。ええええ!! 「それだけ余っていたから、いいのよ! 食べて!」。
こういう時、「そんな、いいです、申し訳ないです」と遠慮する人もいるけど、僕はそんなにまどろっこしいことはしない。自然なやりとりのなかで、どうぞ、と気持ちで出してくれたものは、ありがたく頂戴する、それが礼儀! と思っているので、「おかあさん、ありがとうございます! めちゃくちゃ嬉しいです!」と感謝して、本マグロのトロの刺身をペロリ。……その瞬間、僕の脳は再び竜宮城に戻ってしまい、しばらく言葉が出なかった。名前の通り、口の中でトロリと溶けて、しばらくすると知らぬ前に消えてゆく。
本マグロ
トロトロ、トロリ
気仙沼
そんな句が閃いた夜だった。
気づけば21時。翌日は朝5時に市場に行くので、早く寝よう。「たすく」のおかあさんに厚くお礼を伝えて、店を出た。
さあ、明日はモウカの星とご対面!
川内イオ