未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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空から桜が見えますか

〜『いわき回廊美術館』を作った男たち〜

文= 川内有緒
写真= 川内有緒(特にクレジットがあるもの以外)
未知の細道 No.56 |10 December 2015 この記事をはじめから読む

#7いわきの海でなにかをやりましょう

 出会いから6年後の1994年、蔡さんは「中国に遊びにきませんか」と志賀さんを誘った。当時の蔡さんは、宇宙との対話をコンセプトに、地球規模の巨大な作品を製作していた。そのひとつが、万里の長城の終点・嘉峪関から1万メートルもの導火線を敷設し、火薬を爆発させることで長城を“延長”させるというもの。その現場である嘉峪関にこないかという誘いだった。じゃあ、行ってみっかと志賀さんは渡航を決めた。きっと作品に興味を持ったのだろう。
「いんやあ、蔡さんがいつも持ってきてくれるお茶がおいしいから、買いに行ったんだあ」とさらりと言うので、私は大笑いした。
 色々ありながらも、とにかく万里の長城延長プロジェクトは無事に終了。その帰りのマイクロバスの中で、蔡さんはこう囁いた。
 志賀さん、今度はいわきで何かやりましょう。いわきは海ですから、海で何かやりましょう!
 その時、いわきと蔡さんの物語は、プロローグから本編に入った。いわき市立美術館で蔡さんの個展が行われることが決まったのだ。彼にとって日本初の公立美術館での展示である。


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未知の細道 No.56

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。