未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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幻の落花生をピーナッツバターに!

NutsによるNutsのための物語

文= 川内イオ
写真= 川内イオ
未知の細道 No.93 |25 June 2017
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#5遠州小落花を求めて

遠州小落花の若芽。鮮やかな葉の緑からみずみずしさが伝わってくる

 電撃に打たれたように、「これしかない!」と直感した杉山さんは、すぐに動き始めた。まずは上司に「故郷でピーナツバターを作ることにしたから、仕事を辞める」と宣言し、唖然とされながらも半年後に辞めることを決めた。
 その間に、日本に一時帰国して世界一を取った落花生、遠州で古くから栽培されていた在来種の「遠州半立ち」(通称・遠州小落花)の種を探した。

 すると、意外なことに遠州小落花を栽培している農家が存在しなかった。なぜ? と疑問を抱きながら、1904年の万博に出品した当時の資料を求めて立図書館や郷土資料館を訪ね、文献を漁って組合で品評会に出品していたことと、組合のメンバーを突き止めた。

 そのメンバーをリストアップして、当時のメンバーの子孫を探し出した。ひとりひとり当たっていくと、ある人が「当時の畑をそのままにしてあるから、毎年自生してるよ」と教えてくれた。手に汗を握ってその畑にいくと、雑草が生い茂る耕作放棄地で、土のなかになっている小ぶりの落花生が見つかった。それこそが、遠州小落花だった。

 許可を得てすべての種を持ち帰った杉山さんはすぐに、栽培してくれる協力者を探した。しかし、アメリカで会計士をしているという男から、種にするとたったお茶缶一杯分の遠州小落花を育ててほしいと頼まれて受け入れる農家などそうはいない。

「もともと農業をするつもりはなかった」という杉山さんは、100年以上も放置されながらひっそりと命をつないでいた種を手にして腹をくくった。「自分で作るしかない」。30歳の決断だった。


未知の細道 No.93

未知の細道のに出かけよう!

こんな旅プランはいかが?

プランの旅 1泊2日

予算の目安1万5千円〜

最寄りのICから東名高速道路「浜松西IC」を下車
1日目
車か電車で浜松へ。浜松名物のウナギでランチ。その後、浜松の杉山ナッツ仕入れ店でピーナッツバターをゲット。中田島砂丘で夕陽を見る。
2日目
ぜひ杉山ナッツのピーナッツバターで朝食を。その後は浜松城を見て、ランチの浜松餃子で締め。

※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。

川内イオ

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターに。
スポーツノンフィクション誌の企画で2006年1月より5ヵ月間、豪州、中南米、欧州の9カ国を周り、世界のサッカーシーンをレポート。
ドイツW杯取材を経て、2006年9月にバルセロナに移住した。移住後はスペインサッカーを中心に取材し各種媒体に寄稿。
2010年夏に完全帰国し、デジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部を経て、現在フリーランスのエディター&ライターとして、スポーツ、旅、ビジネスの分野で幅広く活動中。
著書に『サッカー馬鹿、海を渡る~リーガエスパニョーラで働く日本人』(水曜社)。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。