未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
71

夢を見にいらっしゃい。

新潟・越後妻有の「夢の家」の不思議な体眠記

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.71 |25 May 2016
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#10赤い光に包まれて

 次に目が覚めたのは四時だった。再び、夢を見ていたようだ。
 私はまた虫の声を聞いていた。さっきとは違い、ピー、ピーという電子音のような甲高い声が混じっている。鳥の声のようなのだが、聞いたことがない。
 ぼんやりしているうちにハッとした。
 あ、窓がほんのり赤い。
 もう朝が来ようとしている。いよいよ赤い光の時間帯が始まろうとしていた。

 赤い光は、どんどん強くなっていき、いよいよ部屋全体を包み始めた。昨夜は、さぞかし怖いことだろうと想像していたが、実際にはまるで怖くはない。
 むしろ、この赤一色の風景をどこかで知っている気さえした。
 どこでこの風景を見たのだろう? わからない。
 いつの間にか、私は記憶の川をさかのぼり、子供の頃に逆行していくような感覚に襲われた。どこ? おばあちゃんの家のような、古い友人の家のような。いつか見た夕焼けのような。わからないけど、ああ、懐かしい。
 そして、気がつけば自分は赤い光と一体化してしまったかのような奇妙な感覚に陥った。夢か現実か、もはや境目がない世界に私はいた。そして、私は確かにこの世界を知っている、と体の芯の方ではビンビンと感じていた。
 ああ、なんだろう。漠然と考えるうちに不意打ちのように思い当たった。そうだ、きっと、胎内だ。自分が胎児の時、子宮の中から見ていた世界はきっとこんな感じだったのかもしれない。赤い、赤い世界。確かに知ってる。
それは、ふんわりと居心地がよく、どこまでも懐かしい風景だった。

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未知の細道 No.71

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。