目が覚めた。
時計を見ると、十二時半だった。あああ、と棺桶の中で首を回す。背中と首がひどく痛い。この時点は、私は石の枕もリタイアした。ごめんなさい、マリーナ。
その時、風の音もしないのにチリーン、チリーンと風鈴の音が聞こえてきた。微弱な音ながら、断続的に鳴り続いている。
チリーン。チリーン。
さっきまで風鈴なんか鳴ってなかった気がするけど………?
こうなるとあらゆることが気になりだし、妄想ばかりがずんずんと一人歩きを始める。例えば、寝ている間に、誰かがこの箱型ベッドに蓋をしてしまったらどうなるか、というようなことだ。ありえないのに、考えれば、考えるほど背筋がゾーッとする。
こりゃ、ダメだ。
よし、一回気分をリセットしようと思い直し、電気をつけて、枕元から「夢の本」を取り出して読み始めた。
「昔の優しい彼氏がでてくる夢や延々と見た。やっぱり優しい人だった……」 「最初の一時間以外全くねれなかった。とても不快な朝を迎えた……」
誰かの思考の宇宙に入り込んでいるようで面白い。人によっては、イラストつきで図解している人もいる。気がつけば、ずいぶん夢中になって読んでいた。
それにしても、なぜ人はお金を払ってまでこの場所に来るのだろう。
私は、「テレパシー・テレフォン」という、一見ふざけたような壁の言葉を思い出していた。テレパシーとは、心理学の世界では「超感覚的知覚」と言われ、夢や虫の報せといったものもここには含まれる。もしかしたら人は、“夢”というものを通じて、普段は見えない“何か”と交信したがっているのかもしれない。それとも、自分自身か。
「夢の本」を読んでいるうちに気分が落ち着き、再び電気を消した。雨が降り始めたようで、屋根に当たる雨音が家全体に響いた。
その優しい雨が、流れを変えてくれた。
雨音を聞いているうちに、この家が、むしろ私を守ってくれているように感じた。私は、しばしこの豪雪の村での厳しい営みに想いを馳せていた。
冬、ここはどんな世界になるのだろう————。
人々はどうやって猛威を振るう自然と向かってきたのだろう。さっき見た棚田は確かに素晴らしいけれど、あの田んぼを作るのはさぞかし大変なことだろう。
ああ、私は、何を恐れていたのだろうかと思った。ここは、人が暮らす場所なのだ。
深呼吸を繰り返すと、体はどんどんリラックスしていき、再び眠くなった。
川内 有緒