管理人の仕事は、お客さんの宿泊対応(チェックインや案内)、家の掃除、備品や朝食の準備などが主である。宿泊客は多くても一晩に四人だが、管理人さんたちはここの専業ではないし、もともとサービスのプロではないから、苦労は絶えないそうだ。
特に難しいのは、マリーナのコンセプトと、集落の現実に横たわるギャップだ。
例えば、朝食はマリーナの指示によりパンを希望していたが、近隣にはパン屋さんがないので、美味しいパンを手に入れるのはひと苦労だ。試行錯誤したが、結局は、少し遠くにあるパン屋さんから郵便で送ってもらうことにした。そうやって、なるべく作家の意図を汲みながらも、関係者で相談しながら判断していく。
冬になると「夢の家」は基本的にクローズするので、管理人さんの仕事はひと段落する。しかし、豪雪地帯だけに冬季も気が抜けない。ある冬を思い出すと、「ああ、あの時は大変だった!」と管理人さんたちは口をそろえた。
この古い家は、屋根の勾配により自然に雪が落ちるように設計されているが、雪が固まってしまって屋根から落ちない。このままでは重みで家が壊れてしまうと心配し、相談の結果、家の中でストーブを炊いて家全体を温めて、雪を落とすことになった。
朝、ストーブのスイッチを入れ、夕方に消す。それだけなはずなのに、家の周りに積もる数メートルの雪が、その作業を命がけのものに変える。
「カンジキを履いて、このへんは大丈夫かなというところを歩くんだけど、平らではないので、転んじゃったりして、雪に埋まっちゃって」(恵美子さん)
「歩くっていうより泳ぐっていう感じ! 遭難しそうだから、助けてって恵美子さんから電話があって。それで、(積雪のため)二階の窓からはいるのよ。はめ板を渡して」(幸子さん)
「ああ、雪崩とか遭難ってこういう感じかなって。はめ板を渡って中に入る時、もう曲芸みたいな感じです。たった100メートルくらいを進むのに五十分かかりました」(恵美子さん)
一つの作品を守っていくというのはなんて大変なことだろう。私は、話を聞きながら静かな感動が胸に湧き上がった。
川内 有緒