未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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夢を見にいらっしゃい。

新潟・越後妻有の「夢の家」の不思議な体眠記

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.71 |25 July 2016
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#5夢を見にいらっしゃい

 管理人の仕事は、お客さんの宿泊対応(チェックインや案内)、家の掃除、備品や朝食の準備などが主である。宿泊客は多くても一晩に四人だが、管理人さんたちはここの専業ではないし、もともとサービスのプロではないから、苦労は絶えないそうだ。
 特に難しいのは、マリーナのコンセプトと、集落の現実に横たわるギャップだ。
 例えば、朝食はマリーナの指示によりパンを希望していたが、近隣にはパン屋さんがないので、美味しいパンを手に入れるのはひと苦労だ。試行錯誤したが、結局は、少し遠くにあるパン屋さんから郵便で送ってもらうことにした。そうやって、なるべく作家の意図を汲みながらも、関係者で相談しながら判断していく。
 冬になると「夢の家」は基本的にクローズするので、管理人さんの仕事はひと段落する。しかし、豪雪地帯だけに冬季も気が抜けない。ある冬を思い出すと、「ああ、あの時は大変だった!」と管理人さんたちは口をそろえた。
 この古い家は、屋根の勾配により自然に雪が落ちるように設計されているが、雪が固まってしまって屋根から落ちない。このままでは重みで家が壊れてしまうと心配し、相談の結果、家の中でストーブを炊いて家全体を温めて、雪を落とすことになった。
 朝、ストーブのスイッチを入れ、夕方に消す。それだけなはずなのに、家の周りに積もる数メートルの雪が、その作業を命がけのものに変える。 「カンジキを履いて、このへんは大丈夫かなというところを歩くんだけど、平らではないので、転んじゃったりして、雪に埋まっちゃって」(恵美子さん)
「歩くっていうより泳ぐっていう感じ! 遭難しそうだから、助けてって恵美子さんから電話があって。それで、(積雪のため)二階の窓からはいるのよ。はめ板を渡して」(幸子さん)
「ああ、雪崩とか遭難ってこういう感じかなって。はめ板を渡って中に入る時、もう曲芸みたいな感じです。たった100メートルくらいを進むのに五十分かかりました」(恵美子さん)
 一つの作品を守っていくというのはなんて大変なことだろう。私は、話を聞きながら静かな感動が胸に湧き上がった。


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未知の細道 No.71

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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