さて、夜である。
ゴロンと横になると、予想通りに石の枕が当たる首と背中のあたりがカチカチだ。寝心地は最上級に悪いが、そうだ、これも夢を見るためなのですね、マリーナさん、と我慢をする。
しかし、しばらくすると体が汗だくになり、とても気持ちが悪い。硬さまでは我慢できるが、暑さはムリだ。ということで、この時点で、服はもうリタイアすることになった。しかし、磁石が持つ未知のパワーにはあやかりたいので、服を布団のように敷いた。
うん、これでだいぶ寝やすい。マリーナ、ごめんなさい。
ちなみに、管理人さんたちによれば、時たま「やっぱり怖くて寝られない」とか、「フツーの宿と勘違いしてました!」みたいなお客さんもいるらしい。そういう場合は、一階の広間に布団を敷いて寝ることが許されている。
11時、部屋の電気を消した。窓にカーテンはかかっていないが、外から入ってくる光はなく、目の前にはただ漠然とした闇があった。この家は、改装時に天井を取り払い、屋根裏がむき出しなっている。だから梁の向こう側には、いかにも不気味な黒い空間が広がっている。凝視してはいかん! 絶対にいかん! と思えば思うほど、どうしても見てしまうのが人間の心理ってものである。
さらに暗さの中では、聴覚が妙に敏感になる。虫の大合唱や風の音が容赦なく飛び込んできて、ああ、自分はいま山奥にいるのだ、と思い起こされた。合間に変な足音とかノックとか聞こえませんようにと、ひたすら祈る。
幸いものすごく疲れていたので、すぐに眠りのスイッチが入ったようだ。そして、私は一つの夢を見た……。
川内 有緒