未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
71

夢を見にいらっしゃい。

新潟・越後妻有の「夢の家」の不思議な体眠記

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.71 |25 May 2016
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#8三つの夢

 さて、夜である。
 ゴロンと横になると、予想通りに石の枕が当たる首と背中のあたりがカチカチだ。寝心地は最上級に悪いが、そうだ、これも夢を見るためなのですね、マリーナさん、と我慢をする。
 しかし、しばらくすると体が汗だくになり、とても気持ちが悪い。硬さまでは我慢できるが、暑さはムリだ。ということで、この時点で、服はもうリタイアすることになった。しかし、磁石が持つ未知のパワーにはあやかりたいので、服を布団のように敷いた。
 うん、これでだいぶ寝やすい。マリーナ、ごめんなさい。


 ちなみに、管理人さんたちによれば、時たま「やっぱり怖くて寝られない」とか、「フツーの宿と勘違いしてました!」みたいなお客さんもいるらしい。そういう場合は、一階の広間に布団を敷いて寝ることが許されている。
 11時、部屋の電気を消した。窓にカーテンはかかっていないが、外から入ってくる光はなく、目の前にはただ漠然とした闇があった。この家は、改装時に天井を取り払い、屋根裏がむき出しなっている。だから梁の向こう側には、いかにも不気味な黒い空間が広がっている。凝視してはいかん! 絶対にいかん! と思えば思うほど、どうしても見てしまうのが人間の心理ってものである。
 さらに暗さの中では、聴覚が妙に敏感になる。虫の大合唱や風の音が容赦なく飛び込んできて、ああ、自分はいま山奥にいるのだ、と思い起こされた。合間に変な足音とかノックとか聞こえませんようにと、ひたすら祈る。
 幸いものすごく疲れていたので、すぐに眠りのスイッチが入ったようだ。そして、私は一つの夢を見た……。

つづきます

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未知の細道 No.71

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。