せっかくだから、なるべくマリーナの意図した通りに物事をこなすそうと、「インストラクションの部屋」に行き、CDプレイヤーで指示を聞いた(インストラクションは、基本的には全て従うことが推奨されているが、どこまで本当にやるかは各人に委ねられている)。ちょっと機械的な声が発するのは、こんな言葉。
夢の家をご利用になるにあたっては幾つかのルールを守っていただきます。(中略) 清めの部屋では、まずシャワーを浴びます。あなたの前には、水晶でできた枕のついた銅製のお風呂が2つあります。枕の色に注意してください。片方は緑色の水晶で、もう片方は青いソーダ石でできています。はじめに、緑色の枕がついたお風呂に入ります。(中略)次に青い色の枕のあるお風呂に入ります。
お風呂は薬草風呂で、とても気持ちが良かった。薬草は、幸子さんがわざわざ集めてきてくれたものだ。私はインストラクション通りに、十五分ほどをそこで過ごすと、「着替えの部屋」に向かった。
用意されていた真っ白い全身タイツ(モジモジくんみたいな感じ)を身につける。次は、いよいよ宇宙服を着るわけだが、この時点で、泊まる部屋の色を選ばなければいけない。
私は大いに悩んだ末に、赤に決めた。別に赤が好きなわけではない。むしろ悪夢を見そうだから、緑や青にしようかと迷ったが、他の部屋はなんだか狭く感じた。狭い部屋に棺桶のようなベッドでは、本当に息が詰まりそうで余計に怖かった。
「いいよ、赤でいくよ」と私は独り言を言った。
服には十二個の大きな磁石が12個も装着されている。これも、夢を見るための装置らしい。服を着込むとずっしりと重く、さらに羽毛入りなので実に暑苦しい。
それにしても、モジモジくんに、宇宙服に、鍋つかみである。客観的に自分の姿を想像すると滑稽すぎて笑い出しそうになった。いい年こいて、たった一人で何をやっているのだろう!?
川内 有緒