未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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夢を見にいらっしゃい。

新潟・越後妻有の「夢の家」の不思議な体眠記

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.71 |25 May 2016
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#7宇宙服と赤い部屋

 せっかくだから、なるべくマリーナの意図した通りに物事をこなすそうと、「インストラクションの部屋」に行き、CDプレイヤーで指示を聞いた(インストラクションは、基本的には全て従うことが推奨されているが、どこまで本当にやるかは各人に委ねられている)。ちょっと機械的な声が発するのは、こんな言葉。

夢の家をご利用になるにあたっては幾つかのルールを守っていただきます。(中略) 清めの部屋では、まずシャワーを浴びます。あなたの前には、水晶でできた枕のついた銅製のお風呂が2つあります。枕の色に注意してください。片方は緑色の水晶で、もう片方は青いソーダ石でできています。はじめに、緑色の枕がついたお風呂に入ります。(中略)次に青い色の枕のあるお風呂に入ります。

 お風呂は薬草風呂で、とても気持ちが良かった。薬草は、幸子さんがわざわざ集めてきてくれたものだ。私はインストラクション通りに、十五分ほどをそこで過ごすと、「着替えの部屋」に向かった。
 用意されていた真っ白い全身タイツ(モジモジくんみたいな感じ)を身につける。次は、いよいよ宇宙服を着るわけだが、この時点で、泊まる部屋の色を選ばなければいけない。
 私は大いに悩んだ末に、赤に決めた。別に赤が好きなわけではない。むしろ悪夢を見そうだから、緑や青にしようかと迷ったが、他の部屋はなんだか狭く感じた。狭い部屋に棺桶のようなベッドでは、本当に息が詰まりそうで余計に怖かった。
「いいよ、赤でいくよ」と私は独り言を言った。
 服には十二個の大きな磁石が12個も装着されている。これも、夢を見るための装置らしい。服を着込むとずっしりと重く、さらに羽毛入りなので実に暑苦しい。
 それにしても、モジモジくんに、宇宙服に、鍋つかみである。客観的に自分の姿を想像すると滑稽すぎて笑い出しそうになった。いい年こいて、たった一人で何をやっているのだろう!?

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未知の細道 No.71

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。