「夢の家」のチェックインは夕方五時と決まっているので、私たちは、飛田さんが薦める廃校を利用した「鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館」に立ち寄ることにした。芸術祭自体は三年に一度だが、その他の時期でも数え切れないほどの常設作品を見ることができ、ここも、そのひとつだ。
玄関を入って懐かしい雰囲気の下駄箱に靴を入れると、かつての体育館が見えた。その時、「絵本の原画でも展示しているのかな」という予想は、全く的外れだったことに気づいた。
体育館には、カラフルな流木でできた巨大なオブジェのようなものが、空間いっぱいに吊り下がっている。よく見ると、人の形をしたそのオブジェはゆらゆらと動いていて、元気いっぱいに飛び跳ねているように見えた。その独特の躍動感に圧倒されながら、私は「何なんですか、ここは!?」と尋ねた。
先のNPOでこの美術館の運営を担当する天野季子さんは、「ここのコンセプトは『空間絵本』なんです」と解説する。作品を作ったのは、『ちからたろう』などで有名な絵本作家の田島征三さん。
「最初は、田島さんの絵本作品を展示することを考えていたのですが、提案があったのは『学校はカラッポにならない』というこの学校と生徒を舞台にした物語でした。(2005年に)学校が廃校になった時、ユウキ、ケンタ、ユカの三人の生徒がいたんですが、その子たちはみんな転校していきました。でも、子ども達は、きっとここで卒業したかったのではないでしょうか。だからこの作品には、学校の記憶が込められているのです」
物語は、転校した三人が、大切にしていた菜園を見にくる、というところから始まる。すると、学校には「トペラトト」という思い出を食べるオバケが住んでいる。
そうして、学校全体を使って一つの物語が紡がれていく。見ている方も色々な形で参加することができ、いつしか三人の子どもやトペラトトと遊んでいるような気持ちになっていく。
「こりゃ、楽しいですね!」と私はワクワクしながら校舎を巡った。その後はHachi Café という美術館の中にあるカフェで、飛田さん、天野さんとランチを食べた。
「地元の人にとって廃校というのは本当に悲しいものなのです」
と飛田さんはいう。廃校は、自分の思い出の学校がなくなるだけではない。この先、子どもが集落から去り、過疎高齢化がますます進み、周辺が寂しくなることを意味する。
しかし、この美術館ができた後は、日々、観光客や地元のお母さんたちが子どもを連れて遊びにくるようになった。そうやって、誰かが遊びに来れば、学校には新たな思い出が刻まれ、この先もカラッポにならない————。
素敵なコンセプトの美術館だなあと思った。
その後も私たちは高台から素晴らしい棚田が見渡せる星峠や、沿道にある作品を巡りながら、いよいよ「夢の家」に向かった。
川内 有緒