未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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夢を見にいらっしゃい。

新潟・越後妻有の「夢の家」の不思議な体眠記

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.71 |25 July 2016
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#6世にも不思議なチェックイン

マリーナの手書きの「精神の料理レシピ」。じっくり読むとなかなか面白い。

 さて、いよいよ、チェックインの時間がやってきた。「夢の家」の定員は4名だが、この日の宿泊客は私だけだ。
 ここでは、普通のホテルのチェックインなどとはまるで異なり、一つ一つの部屋どう使うべきかが細かく指示される。
 お風呂は「清めの部屋」と呼ばれ、何分間、どんな姿勢でお風呂に入るかも決まっている。家には、その他に「着替えの部屋」、過去に書かれた夢の本が読める部屋「夢の図書館」などがある。マリーナによる壁の殴り書きは「精神の料理レシピ」と呼ぶそうだ。さらには、家のあちこちに、「テレパシー・テレフォン」などと書かれた古い黒電話や、モノクロの写真、すすけた神棚があって、正直に言えば少しホラーっぽい。
 二階には赤、青、緑、紫をテーマカラーにする四つの寝室があり、それぞれにあの棺桶のようなベッドが置かれている。窓ガラスがそれらの色に加工されていて、光を浴びると部屋がその色に染まる仕組みだが、夜は幸か不幸かほとんど色がわからない。
「着替えの部屋」には、それぞれの部屋に対応する色の寝るための服(宇宙服みたいなやつだ)があり、ご丁寧にも巨大な手袋まで付いていた。
「手袋って、暑そうですね」
「ええ、鍋つかみみたいですねえ」
 そう受け答えする恵美子さんは、どこか遠い国の芝居に出演している人のように見えてくる。

「ご飯はこの部屋で、この御膳を出して食べていただきます」
 説明を続ける恵美子さんが指差した先には、時代劇でしか見ないような一人用の黒の漆乗りの御膳が戸棚にしまわれていた。
「必ず御膳で食べるんですか?」
 私が驚いて質問するたびに恵美子さんは、「ええ、変わってますよね?」と少し嬉しそうに答える。
 一通りの説明を終えると「それでは」と恵美子さんは自宅に帰っていった。

 うーん、こんなに広い古民家にたった一人か…… 。
 ひたすら静かだった。都会育ちの私には、落ち着かないこと極まりない。
 そうだ、とりあえずはご飯を食べようと思い付き、なめこと油揚げを入れたそばを自分で作り、お膳で食べ終えた。
 腹ごしらえが住むと、一人きりの長い、長い一夜が始まった。

夕飯は自炊か持ち込み。キュウリは幸子さんの差し入れ。
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未知の細道 No.71

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。