未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
95

八ヶ岳の麓の「星空の映画祭」

星が煌めく夜は、映画の魔法にかかりたい

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
一部写真提供= 星空の映画祭
未知の細道 No.95 |25 July 2017
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#11二つのマジックが起こる

「同じ映画でも野外で見るとどう違いますか?」と私が尋ねると武川さんは、「野外の映画は、体感するもの」と答えた。「寒い暑い、星が見えたり、雨が降ったりと本当に色々あるんだけど、とりまく自然の全てが映画の演出になる」
 ウッディ・アレンが脚本と監督を担当し、アカデミー賞を受賞した『ミッド・ナイトイン・パリ』をかけた年のことだ。
 映画の中で雨が降り出すと、シンクロするように現実でも雨が降り出した。しかも、途中からはかなりの土砂降りに。それでも、多くの観客は会場に留まって映画を見続けた。
「せっかく遠くからきたのに雨が降って最悪だと言われても仕方がないのに、
映画と同時に本当に雨がふってきて、すごい体験した、すごくよかったと言ってくれる人がたくさんいたんです。その時、“マジック”が起きたんですね」
と武川さんは言う。
 そして、映画が終わると同時に、もう一度“マジック”が起きると中村さんが教えてくれた。
 それは頭上の暗闇に現れる満点の星空。
 映画が終わった瞬間に、あちこちから「うわあ! きれい!」という驚きの声が聞こえてくる。

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未知の細道 No.95

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。