未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
95

八ヶ岳の麓の「星空の映画祭」

星が煌めく夜は、映画の魔法にかかりたい

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
一部写真提供= 星空の映画祭
未知の細道 No.95 |25 July 2017
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#9復活したい人、集まれ!

いろいろな職業や年齢のボランティアが集まって、協力しあっている。

 さっそくSNSで、「星空の映画祭を復活したい人、集まれ!」と呼びかけた。すると地元のデザイナー、農家、建設業の人など職種の異なる五人が集まった。彼らはたびたび集まり、多くのことを一から決めていった。
「なにを上映するかという企画会議から始まって、入場料の設定の仕方、ちらし作り、ちらし配り、会期中の会場設営や運営まで話し合いました」
 東京にいる武川さんは、映画の配給会社との交渉などの映画関係の実務を担当。地元にいる秋山さんを中心としたメンバーは、その他の準備を担当した。そして、映写や配給の窓口にあってくれたのは、あの新星劇場の柏原さんだった。

 記念すべき復活の年となる2011年、選ばれた映画は『アバター』。『ジュラシック・パーク』の体験を再現したいと選んだ。
 当時の星空の映画祭では予約はとらず、当日チケット制である。だから蓋を開けて見るまで何人くるかは全くわからない。会期中は毎日ドキドキしながらお客さんを待った。
 当日、『アバター』にはたくさんの子どもたちがやってきた。目を輝かせて映画をみる姿は、「まるで昔の自分をみるようだった」と武川さんはいう。結果、『アバター』はその年一番の人気作品となった。

 また以前のラインナップでは、ファミリー向けのメジャーな作品が多かったが、今回は新たな試みとして、有名ではなくとも、このロケーションに合いそうな映画もかけてみることにした。
 選ばれたのは、フランス映画の『夏時間の庭』。
 派手なアクションはなく、南フランスの田舎でバカンスを過ごす家族を描いたドラマである。南フランスの草原と原村の景色はどこか似ていると、セレクトされた。
「ものは試しでやってみたんですが、年配の女性のお客さんがきてくれました。しかも、たくさん! どこにこんなにマダムがいたんだろう! というほどに女性たちが連れ立ってやってきました」(武川さん)

 ここには、映画を求める人たちがたくさんいる、星空の下で映画を見たい人がたくさんいる。スタッフは、確かな手応えを感じた。
 柳平さんも喜んでくれ、毎日のように映画祭に現れた。そして柏原さんも毎日、映写小屋にこもって映写機を回してくれた。
 二週間の映画祭で、約千四百名の観客を動員。
 こうして、一度消えかけた「星空の映画祭」は、世代を超えたメンバーで再び火が灯ったのである。

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未知の細道 No.95

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。