未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
95

八ヶ岳の麓の「星空の映画祭」

星が煌めく夜は、映画の魔法にかかりたい

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
 一部写真提供= 星空の映画祭
未知の細道 No.95 |25 July 2017
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#2ひっそりと森に佇む映画館

原村で生まれ育った中村さん。緑溢れる映画祭のステージを案内してくれた。

 映画祭の舞台となる「八ヶ岳自然文化園」を私が訪れたのは、台風が去ったあとの薄曇りの日だった。
 東京は蒸し暑かったのに、標高1300メートルの原村に着くと涼しくて気持ちがいい。すぐそこに頂上に雲を抱いた八ヶ岳が見えた。
 こちらです、と中村さんに案内された先には、なんとも不思議なステージが。
「うわあ、すごくいいですね……!」
 と思わず声をあげた。
 緑の木々に囲まれたステージ。
 階段状になった石と草の客席。
 後ろを振り向くと、小さな映写小屋があった。映写小屋を覗き込むと、ふいに『ニューシネマパラダイス』を思い出した。
 ここは森の中の映画館。静かに、静かに観客を待つ映画館。

映画祭復活の立役者の一人、武川さん。東京で働きながら今も映画祭の運営に携わる。

 さて、一度休止になった映画祭を復活させた立て役者の一人である武川さんが、初めてここを訪れたのは、あの『ジュラシック・パーク』の上映時だった。当時は中学一年生、原村からは少し離れた岡谷市に住んでいた。
「『ジュラシック・パーク』は、もう近くの映画館で三回も見ていました。それでも、野外で見られるらしいという話をきいて、もう一度見たくなったんです。子どもながらに、これはちょっとすごいんじゃないか、ただならぬことが起きるんじゃないかという予感がしました。それで、お父さんを口説いて、家族で向かいました。自分の予感は当たって、映画の臨場感はものすごかった」
 高校生になって車の免許を取得すると、今度は友人と『スターウォーズ』のリバイバル上映を見に行った。
 冒頭の場面では星空が移り、かの有名なSTAR WARSのロゴが浮かび上がった。
「実際の星空とスクリーンに境目がなくなって、無限にスクリーンが続いていて、自分が物語の中に入ってしまったような感覚を覚えました」

 しかし、その直後に大学進学で上京した武川さんは、なかなかこの野外映画祭にいく機会はなくなってしまった。彼が再びここに舞い戻るのは十年以上あとのことになる。

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未知の細道 No.95

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。