映画祭の舞台となる「八ヶ岳自然文化園」を私が訪れたのは、台風が去ったあとの薄曇りの日だった。
東京は蒸し暑かったのに、標高1300メートルの原村に着くと涼しくて気持ちがいい。すぐそこに頂上に雲を抱いた八ヶ岳が見えた。
こちらです、と中村さんに案内された先には、なんとも不思議なステージが。
「うわあ、すごくいいですね……!」
と思わず声をあげた。
緑の木々に囲まれたステージ。
階段状になった石と草の客席。
後ろを振り向くと、小さな映写小屋があった。映写小屋を覗き込むと、ふいに『ニューシネマパラダイス』を思い出した。
ここは森の中の映画館。静かに、静かに観客を待つ映画館。
さて、一度休止になった映画祭を復活させた立て役者の一人である武川さんが、初めてここを訪れたのは、あの『ジュラシック・パーク』の上映時だった。当時は中学一年生、原村からは少し離れた岡谷市に住んでいた。
「『ジュラシック・パーク』は、もう近くの映画館で三回も見ていました。それでも、野外で見られるらしいという話をきいて、もう一度見たくなったんです。子どもながらに、これはちょっとすごいんじゃないか、ただならぬことが起きるんじゃないかという予感がしました。それで、お父さんを口説いて、家族で向かいました。自分の予感は当たって、映画の臨場感はものすごかった」
高校生になって車の免許を取得すると、今度は友人と『スターウォーズ』のリバイバル上映を見に行った。
冒頭の場面では星空が移り、かの有名なSTAR WARSのロゴが浮かび上がった。
「実際の星空とスクリーンに境目がなくなって、無限にスクリーンが続いていて、自分が物語の中に入ってしまったような感覚を覚えました」
しかし、その直後に大学進学で上京した武川さんは、なかなかこの野外映画祭にいく機会はなくなってしまった。彼が再びここに舞い戻るのは十年以上あとのことになる。
川内 有緒