未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
95

八ヶ岳の麓の「星空の映画祭」

星が煌めく夜は、映画の魔法にかかりたい

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
一部写真提供= 星空の映画祭
未知の細道 No.95 |25 July 2017
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#5ペンション村の映画祭

原村には多くの可愛らしいペンションが立ち並ぶ。どこか外国のような雰囲気が漂う。

 そもそも、なぜスターダスト・シアターは休止してしまったのだろう?
 現在、映画祭の運営メンバーで、原村の出身の中村さんは、その疑問にこう答えてくれた。
「原村はペンションがたくさん建ち並ぶペンション村で、80年代に、二十代、三十代の若者がペンション経営をしようとここに“入植”してきました。入植した頃は、みんな超パワフルで、毎晩のようにみんなで一緒にお酒を飲んだりして、あれやろう、これやろう、みたいな勢いがすごかった」
 中村さんのご両親も、まさにペンションを経営する一人だった。

緑豊かな映画祭のステージ。昔は八ヶ岳自然文化園はなく、ただの草原だったとか。

「僕が小さい頃は、ペンションには一年中お客さんがたくさん来ていて、すごく忙しかった。近隣ではマラソン大会や自転車レースなんかもあって、この映画祭も大人気でした。映画祭にも、一時は企業スポンサーについていたと思いますよ。ただ、ペンションオーナーも徐々に年をとってきたし、ペンションも人気が落ちてきて、一つ一つイベントがなくなっていったんです……」
 それは、ある意味で日本の長引く経済不況とも重なるのかもしれない。とにかく大手企業が映画祭を支えることができなくなると同時に、ペンションへの旅行者も減り、地元側も以前ほどの勢いがなくなった。
 それが、武川さんが東京で働いている間に、原村で起こった大きな変化だった。

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未知の細道 No.95

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。