未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
95

八ヶ岳の麓の「星空の映画祭」

星が煌めく夜は、映画の魔法にかかりたい

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
一部写真提供= 星空の映画祭
未知の細道 No.95 |25 July 2017
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#10とにかく続けていきたい

 今でもスタッフは、月に一度は会議を続けている。
「もう一年中、会議やってますねー! 終わると打ち上げや集計とかがあって、年を開けるともうその年の企画が始まる」という中村さんは楽しそうだ。
 柳原さんも、たびたびバイクで応援にやってきて、柏原さんは引き続き映画会社との交渉や映写を担当。中村さん自身は、近隣のペンションとの調整など、「原村の人間としてできること」を全てやっているという。人手が足りないという連絡があればすぐに駆けつけられるのも地元の人ならでは。
「こうして続いてきたんだから、もはや自分たちの問題などで勝手にやめちゃいけないと思いますね。色々なイベントが終わってしまったからこそ、とにかく続けることが大事だと思っている」と中村さんは決意を新たにする。

看板などもスタッフが手作りしている。

 最初は五人だったボランティアも、五十人の大所帯になった。「1日だけだけど、チラシをくばります」という人もいるが、それも大歓迎。ほとんどのメンバーが、子どもの頃に映画祭で映画を見て感動したという人々だ。
 以前は原村近辺のお客さんが圧倒的に多かったが、今は遠方や東京からも来るようになった。
「服装を見ただけで遠方からきたなってわかりますね。半袖、短パン姿だったとか。夜はぐっと冷え込みますから、地元の人間からするとありえないんですよ。だいたい帰るときはブルブル震えてます。ホームページにも『寒いです』って一生懸命書くんですけどねー。あったかいコーヒーを出したり、ブランケットの貸し出しもやっています。逆に、確実にプロだなってっていう人もいますね。もう山の装備なんですよ。リュック背負って、折りたたみの椅子持って、レインジャケット持ってきてる。雨の日でもすごい装備持ってちゃんときますからね」
 復活から今年で八年。
 お客さんは増え続け、昨年はついに述べ1万人近くを動員。
 ついには、入場を断らざるを得なくなった映画も出てきてしまった。嬉しい悲鳴である。

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未知の細道 No.95

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。