その映画館・新星劇場を訪ねた日のことを、武川さんは衝撃と共にはっきりと思い出す。
映画館を訪ねると、ちょうどティム・バートン監督の『アリス・イン・ワンダーランド』が上映中だった。ルイス・キャロル作の「不思議の国のアリス」の“その後”を描いたユニークな作品である。
「吉祥寺バウスシアターでもちょうど『アリス・イン・ワンダーランド』を上映中で、連日満席が続いていました」
劇場では、柏原さんが二人を待っていてくれた。挨拶をし、話を始めたものの、武川さんはあることが気になっていた。
映画館が、静かすぎる──。
「劇場の扉が開いていて、どうも映画が回っている感じがしなかったんです」
思い切って「いま上映中ですか」と尋ねると、柏原さんは「いやあ、全然客がこねーから今の回はまわしてないんだよ」と答えた。
その言葉に、大きなショックを受けた。
「なんか東京と地方の差というのは話ではたくさん聞いていたんですが、これほどはっきりと明確に差がでる現実を初めて見た気がしました。吉祥寺では一日千人入る映画なのに、こっちでは観客がゼロ。一人もきていないんですよ。それを見たらもうなにも言えなくなっちゃったんですよね。また映画祭をやりましょうなんて。ここで今やっても、きっと誰もこないんだ。それだけ大変なんだって」
武川さんたちは、復活しましょうと言い出せないまま、柏原さんからたくさんの話を聞いた。この映画祭がどう始まり、どう運営されてきたか。
全ての始まりは『風の谷のナウシカ』だった。
川内 有緒