未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
95

八ヶ岳の麓の「星空の映画祭」

星が煌めく夜は、映画の魔法にかかりたい

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
一部写真提供= 星空の映画祭
未知の細道 No.95 |25 July 2017
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#7誰もいない映画館

茅野新星劇場の柏原さん。映画祭を立ち上げ、今も活躍している。

 その映画館・新星劇場を訪ねた日のことを、武川さんは衝撃と共にはっきりと思い出す。
 映画館を訪ねると、ちょうどティム・バートン監督の『アリス・イン・ワンダーランド』が上映中だった。ルイス・キャロル作の「不思議の国のアリス」の“その後”を描いたユニークな作品である。
「吉祥寺バウスシアターでもちょうど『アリス・イン・ワンダーランド』を上映中で、連日満席が続いていました」
 劇場では、柏原さんが二人を待っていてくれた。挨拶をし、話を始めたものの、武川さんはあることが気になっていた。
 映画館が、静かすぎる──。
「劇場の扉が開いていて、どうも映画が回っている感じがしなかったんです」
 思い切って「いま上映中ですか」と尋ねると、柏原さんは「いやあ、全然客がこねーから今の回はまわしてないんだよ」と答えた。
 その言葉に、大きなショックを受けた。
「なんか東京と地方の差というのは話ではたくさん聞いていたんですが、これほどはっきりと明確に差がでる現実を初めて見た気がしました。吉祥寺では一日千人入る映画なのに、こっちでは観客がゼロ。一人もきていないんですよ。それを見たらもうなにも言えなくなっちゃったんですよね。また映画祭をやりましょうなんて。ここで今やっても、きっと誰もこないんだ。それだけ大変なんだって」
 武川さんたちは、復活しましょうと言い出せないまま、柏原さんからたくさんの話を聞いた。この映画祭がどう始まり、どう運営されてきたか。
 全ての始まりは『風の谷のナウシカ』だった。

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未知の細道 No.95

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。