こうして9人が「北磁極を目指す冒険ウオーク2000」に参加。おもしろいほど全員がアウトドアのド素人だった。大場さんは、参加者を故郷・最上町に集め、合宿訓練を行った。雪の中でのテントの建て方やコンロの使い方、スキーでの歩き方を基礎から指導する。
訓練を終えた9人は、レゾリュートに出発。マイナス30度という極度の低温に体をならす訓練を繰り返した。そして一週間後には、本当にひとり50キロの装備を積んだソリを引きながら、氷の上を歩き始めた。
「いろんな人がいたよねー。マイペースな女子大生もいて、みんなが食べ終わってもずっと食べてたり。空手の有段者の子もいたよね。あんまり水飲まないから脱水症状ですぐばてちゃって。荻田君は、すごく真面目に取り組んでたよね。他の人とはどこかちょっと違う感じがあったかな。彼には無線を担当させたんですよ。彼、話が上手で無線でバッチリ楽しんでやってましたよ!」
最終的には、女性ひとりを除き、8人が700キロを歩き通した。「ちゃんと教えて、助け合いえばなんとかなる」という大場さんの考えは正しかった。
その時、荻田さんが北極に激しく魅了されたのは間違いない。翌年から何度もひとりで北極に通い、今や押しも押されぬ北極の第一人者(探検家で作家の角幡唯介さんは愛情をこめて「北極バカ」と呼ぶ)として知られる。
そして、2018年1月6日、40歳になった荻田さんは、日本人初となる無補給・単独徒歩による南極点到達に成功。第22回植村直己冒険賞を受賞した。
そして今も、荻田さんは、単独無補給による北極点到達を目指し続いている。大場さんに言わせれば、「北極は、南極の何十倍も難しいけど、荻田くんならきっとやれるかもしれない。若いと無茶をしちゃうから怖いんだけど、荻田君はもう40歳だから落ち着いているし。」
荻田さんもまた、来年の春、若い人々を連れてカナダ北極圏を歩く計画を立てている。植村直巳さんから渡された極地冒険家というバトンは、いまも脈々と受け継がれているのだ。
川内 有緒