そして大場さんが始めた活動が、今回訪れた「冒険学校」である。なにも本格的な冒険家を育てるための学校ではない。よりシンプルに、子どもたちに自然の中で過ごすことの楽しさを伝えたいという。
「一番大切にしているのは五感で感じること。美味しいものを食べて、人や自然に感謝することです。俺ねえ、北極で遺書を書いたんですよ。補給が全然来なくて、無線機もないから状況もわからない。起きていると嫌な想像ばかりしてしまうので、だいたい寝てるんです。その時に思い出したのが、田んぼの草の香りとか山から湧いてくる水の美味しさとか。また生きて故郷に帰るぞー!って思って、元気になれたんですよ。だから、今の子どもたちにも自然のなかでの思い出を持っていて欲しくて」
子どもたち向けの活動は、「ワイルドエドベンチャースクール」という名でも呼ばれる。「エドベンチャー」という言葉は大場さんの造語で、Education(教育)と、Adventure(冒険)、Venture(思いきって進む、立ち向かうという意味)を組み合わせたもの。活動の中心地は、この最上町だ。
山に登ったり、雪原を歩いたり、犬ぞりに乗ったり、カヌーや筏で川を下ったり。そのほかに稲刈りや料理もするし、時にはブラジルのサンバにあわせて踊ることもある。もう数え切れないほどの子どもたちと一緒に、そこにある自然を楽しんできた。
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私が訪れたその日、学校の前には、ひとつの足跡もない白い野原が広がっていた。遠くには、馬が走っているのも見える。近所に馬牧場があるらしい。
真っ白い雪原を、山に向かって風が吹いていく。
「この間はね、子どもたちと野原のあっちとこっちに分けて、狼の遠吠えでコミュニケーションしたんですよ!」
そう言いながら、「ワオーン!」と大場さんは雪原に響く声を出した。
「俺が子どもたちに伝えたいのは、自分で考えて、判断して、納得して生きろってことなんだよ。人生、競争じゃつまんない。人とおんなじことやるの、つまんないじゃん。自分の頭で考えて、判断すること。それが冒険なんです」
川内 有緒