未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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職業欄は冒険家!?

山形の大自然が生んだ冒険家・大場満郎さんの「死ぬまで輝いた目で生きる」という人生の挑戦

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.129 |10 January 2019
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#9人生、競争じゃつまんない

「ワイルドエドベンチャースクール」の写真。みんな楽しそう

そして大場さんが始めた活動が、今回訪れた「冒険学校」である。なにも本格的な冒険家を育てるための学校ではない。よりシンプルに、子どもたちに自然の中で過ごすことの楽しさを伝えたいという。

「一番大切にしているのは五感で感じること。美味しいものを食べて、人や自然に感謝することです。俺ねえ、北極で遺書を書いたんですよ。補給が全然来なくて、無線機もないから状況もわからない。起きていると嫌な想像ばかりしてしまうので、だいたい寝てるんです。その時に思い出したのが、田んぼの草の香りとか山から湧いてくる水の美味しさとか。また生きて故郷に帰るぞー!って思って、元気になれたんですよ。だから、今の子どもたちにも自然のなかでの思い出を持っていて欲しくて」

子どもたち向けの活動は、「ワイルドエドベンチャースクール」という名でも呼ばれる。「エドベンチャー」という言葉は大場さんの造語で、Education(教育)と、Adventure(冒険)、Venture(思いきって進む、立ち向かうという意味)を組み合わせたもの。活動の中心地は、この最上町だ。
山に登ったり、雪原を歩いたり、犬ぞりに乗ったり、カヌーや筏で川を下ったり。そのほかに稲刈りや料理もするし、時にはブラジルのサンバにあわせて踊ることもある。もう数え切れないほどの子どもたちと一緒に、そこにある自然を楽しんできた。

  • 「ワイルドエドベンチャースクール」の様子(写真提供:最上町教育委員会)

***

私が訪れたその日、学校の前には、ひとつの足跡もない白い野原が広がっていた。遠くには、馬が走っているのも見える。近所に馬牧場があるらしい。
真っ白い雪原を、山に向かって風が吹いていく。
「この間はね、子どもたちと野原のあっちとこっちに分けて、狼の遠吠えでコミュニケーションしたんですよ!」
そう言いながら、「ワオーン!」と大場さんは雪原に響く声を出した。

「俺が子どもたちに伝えたいのは、自分で考えて、判断して、納得して生きろってことなんだよ。人生、競争じゃつまんない。人とおんなじことやるの、つまんないじゃん。自分の頭で考えて、判断すること。それが冒険なんです」

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未知の細道 No.129

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

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「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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