未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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職業欄は冒険家!?

山形の大自然が生んだ冒険家・大場満郎さんの「死ぬまで輝いた目で生きる」という人生の挑戦

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.129 |10 January 2019
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#6植村直己さんとの出会い

大場満郎冒険学校の入口
植村直己のアドバイスを受けて作ったピラミッド型テント。
テントはなかで煮炊きができるように改良されている。

「着きました!」
と冒険学校に案内されると、かなり立派な施設がそこにあった。宿泊施設や立派な講義室、展示スペースもある。二階の展示スペースでは、365日いつでも大場さんが過去に冒険で使った装備やカヌー、写真や日記などの記録を見ることができる。

大場さんは、「これが植村直己さんのアドバイスを受けて作ったピラミッド型テントです」と言いながら、ひとつのテントを指差した。子供達がやってくると、喜んで中に入るという。
展示されている防寒具やそり、テントの多くが大場さんの要望に合わせて作られた特別な仕様だ。たとえば、テントはなかで煮炊きができるように改良されていて、北極や南極のようなマイナス50度の世界でも小さな家のように快適に過ごせるのだそうだ。私も子どものようにテントの中を見たり、大場さんの日記を読んだりして過ごした。
日記には、とても几帳面な小さな字でその日の様子が描かれていた。

  • 大場満郎冒険学校の二階展示スペース(左)、単独徒歩による北極海横断時の大場さんの日記(右)

***

アマゾンでの冒険を終えた大場さんはが次に向かったのが、北極圏だった。植村直己さんの影響も大きいという。
「おれ、植村直己さんが好きなんですよ」
植村直己さんは、1970年に日本人として初めてエベレストに登頂したことで有名だ。エベレストに登った当時の植村さんは、団体で挑む登山(極地法)に参加していたが、しばらくすると、だんだんと単独の冒険に傾倒していく。グリーランドでイヌイットとともに暮らし、1978 年には人類初となる犬ぞりでの北極点単独行に成功。その孤高の挑戦の姿に、ひとりで世界を漂流し始めた大場さんは、憧れの気持ちを抱いた。

1983年、グリーランドの西海岸を歩くという冒険を計画し始めた大場さんは、ぜひアドバイスをもらいたいと、植村さんに手紙を書いた。すると、植村さんは、北米最高峰のデナリ(当時のマッキンリー)に挑む直前で忙しそうだったが、なんとか時間をやりくりしてくれ、会うことができた。
「植村さんはとても優しかったです」と大場さんは言う。
「郷に入りては、郷に従え」というのが植村さんの教えで、「向こうでは漁師の家にお世話になれ。アザラシの生肉を食べるといい」などの具体的なアドバイスをくれた。また、イヌイットの村の友人の名前を書いた紙を手渡し、よろしく言ってくださいと頼まれた。そして、親切に自身の防寒服やコンパスをプレゼントしてくれ、グリーランドの地図も貸してくれた。大場さんはその数々の装備やアドバイスを胸にグリーランドを歩き通した。

帰国後、大場さんは、植村さんとの再会を楽しみにしていたが、叶わなかった。植村さんは、1984年2月にデナリ登頂を果たした後、行方不明に。帰らぬ人となったのだ。

一方の大場さんは、その後、数年に渡り北極圏での冒険を繰りかえした。そして、一連の冒険の締めくくりとして、世界でまだ誰も成功していない、単独徒歩による北極海の横断(1750キロ)を目指すことにした。

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未知の細道 No.129

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

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「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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